ヘルスケア特集 ヘルスケア
監修藤本 靖(ふじもと やすし)先生 環境神経学研究所株式会社代表取締役/長野県立大学大学院客員准教授(神経生理学・ボディワーク)/ボディワーカー

『肩こりには脇もみが効く』(マガジンハウス)など著書多数。

■ 加齢によるバランス感覚の低下が疲れの原因に

夏の終わりは気温や湿度の変化に加えて、生活リズムの乱れなども重なり、心身に疲れが出やすい時季です。特に、40代以降の方からの「若い頃に比べて疲れが抜けにくくなった」といった声をよく耳にします。

その背景のひとつに、自律神経と深く関係する「平衡感覚(へいこうかんかく)のセンサー」の衰えがあるのをご存じでしょうか。このセンサーは、体がまっすぐ立っているか、重力に対してどのようにバランスをとっているかといった、いわば体の芯を感じるための感覚です。ところが、このセンサーの数は加齢とともに徐々に減少します。すると、無意識に姿勢を保つために余計な筋肉を使ってしまい、知らず知らずのうちに体に負担が掛かり、疲れやだるさの原因になることも。そんなときにおすすめしたいのが、脇の下にある「前鋸筋(ぜんきょきん)」を刺激するストレッチです。


■ 脇を刺激して、心地よさとバランスを取り戻す

前鋸筋は下図のように、肩甲骨と肋骨をつなぐインナーマッスルです。姿勢や呼吸を支えるだけでなく、体のバランスを保つうえでも欠かせない重要な筋肉。しかし現代の生活ではこの筋肉はあまり使われておらず、硬くなって機能が低下してしまうことが多くあります。その結果、体のバランスがくずれ、肋骨の動きが制限されて呼吸が浅くなったり、肩や首に余分な負担が掛かったりするのです


■ 腕を支える隠れた主役前鋸筋(ぜんきょきん)とは?



脇の下全体にギザギザ状に広がり、肩甲骨と肋骨をつなぐのが前鋸筋。肩甲骨を胸郭に安定させるほか、前方へ引き出す動作にも関与し、姿勢や呼吸、肩の動きに影響を与えます。人の腕は片方だけで約4〜5kgあり、本来は前鋸筋が間接的に支えているため、うまく働かないと肩や首に大きな負担となります。



その前鋸筋を活性化させる方法が、「脇ストレッチ」です。まず片方の前鋸筋をストレッチしてから、呼吸をしてみてください。片側の肋骨がよく動くようになるため、呼吸が深まり「こちら側の方が心地よい」と実感できるはず。その体感が、「自分の体は思っていた以上に硬かった」と気づくきっかけになります。これはまさに、眠っていた体のセンサーを目覚めさせるプロセスなのです

何をしても疲れが抜けないーーそんな夏の終わりの不調に悩んでいるなら、今こそ体本来のバランスを取り戻すチャンスです。今日から「脇ストレッチ」を習慣化して、心地よい秋への一歩を踏み出してみませんか?

Check!
あなたの前鋸筋、眠っていませんか?

普段から前鋸筋が使われているかどうか、チェックしてみましょう。腕立て伏せの姿勢をとって、もし腕がプルプル震えたり、姿勢をキープするのが難しくておなかが下がる(腰が反る)といった状態になっているなら、前鋸筋が眠っているサインです。




■ 藤本先生直伝 簡単「脇ストレッチ」入門

眠っていた前鋸筋を目覚めさせる「脇ストレッチ」で、深い疲れを手放しましょう。あなたの毎日がきっと変わります。

「脇ストレッチ」の流れ

① 左手の指先を左肩に軽くのせる。

② 左の脇(前鋸筋)を、右手のすべての指で軽く押さえる ポイントA
*脇の下ではなく、脇から腰にかけてのセンターライン上にある前鋸筋を押さえる。

③ 左肩を前から後ろへ3回、後ろから前へ3回、再び前から後ろへ3回、ゆっくりと回す ポイントB 。このとき、目は常にひじの動きを追いながら ポイントC 、ひざも使って上体とともに大きく回す ポイントD

④ 腕を左右入れ替え、同様のストレッチを行う。




気持ちの良い場所を押さえる

指を置く位置は、脇から腰にかけてのセンターライン上であれば、気持ち良いところでOK。押さえる場所を、上部、真ん中、下部と移動させても良い。



前鋸筋を意識して動かす

脇を押さえている手は「ここが動くよ」という合図。前鋸筋が動いていることをイメージして行うと効果的。



ひじの先を目で追う

バランス感覚は「目の動き」とも密接に関係しているため、ストレッチ中はひじの動きを目で追い、視線を動かすと良い。



ひざも使って大きな動きに

肩を回す際、上半身だけでなく、ひざの曲げ伸ばしをしながら行うと大きな動きになり、より前鋸筋を刺激しやすくなる。

Check!
\応用編/
+αの効果を生む脇ストレッチ

脇タオルストレッチ

デスクワーク中にできるのが「脇タオルストレッチ」。タオルを丸めて筒状にし、脇の下に挟むと、自然と「脇をしめる動作」になり、前鋸筋が働きます。




ちょうちん袖ポーズ

バランス感覚を取り戻すには、正しい姿勢を知ることが大切。両肩に両手の指先を軽くのせる「ちょうちん袖ポーズ」をすると、肩関節が自然な位置に収まり、心地よく整った姿勢になります。




あくびストレッチ

脇を押さえながらあくびをし、吐く息に合わせて声を出してみましょう。あくびは「最も深い呼吸」のひとつ。呼吸筋の奥まで緩め、脳神経も活性化します。



藤本先生からのメッセージ

私たちはつい「疲れているわけにはいかない」「もっと元気でいなければ」と思いがち。でも大切なのは、頑張ることより「心地よさ」を感じる体に整えていくことです。脇ストレッチで前鋸筋を緩め、体のバランスを取り戻せば、自然と呼吸も動きも軽やかに。年齢や周囲と比べず、あなた自身の心地よさを育てていきましょう。深い疲れを手放し、すこやかな秋の日々を楽しんでください。





イラスト:二階堂ちはる

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