ヘルスケア特集 ヘルスケア

まずは毎日を楽しく過ごすこと。
それが免疫の対策にもつながります。

藤原 大介 さん キリンホールディングス株式会社 常務執行役員 R&D戦略、R&D 本部長、農学博士

東京大学大学院農学生命科学研究科修了。2010年にプラズマ乳酸菌を発見したことでも知られる食品免疫学研究の第一人者。

1. 世の中の「免疫観」についての受け止め方

――困難な時期を経て、私たちは免疫というものをより意識するようになりました。ここ数年で大きく変化した世の中の「免疫観」について、どう受け止めていますか?

「自分たちの健康について考える場面が増え、あれほどまでに人々の関心が免疫に向いたのは、初めてではないでしょうか。免疫への理解が一気に進んだのは良いことですが、日本では"防御"の側面ばかりが注目されてしまったのは残念です。
以前、ベトナムで消費者調査をしたことがあるのですが、多くの人が外敵を防ぐことと、体内の異常を修復することの両方が大事だということを正しく理解していました。ベトナムでは、免疫対策というとヨガなどをイメージする人が多いのですが、日本では、マスクなど外側からの防御を連想しがちですよね。これは"疫を免れる"と書く言葉が良くないのかもしれない。不必要に"免疫=防御"のイメージを誘導させている気がします。私たち日本人は、免疫が外側からの敵を防ぐだけではなく、内側からも防いでいることを、もっと理解しなければいけないと思います。日常を取り戻した今こそ、特に"内側の免疫対策"が重要になります」

――改めて、免疫とはどういうものなのか、わかりやすく教えていただけますか。

免疫とは、身体の防御システムです。体内の免疫細胞が外敵や異常細胞から身を守るために働き、健康の土台となって私たちの身体の調子を整えています。パソコンでいうと、OS(管理システム)のようなもの。外部からのリスクを排除するだけでなく、内部のシステムを正常に保ち、さらにアップデートや学習も行います
人生100年時代といわれている今、自分の身体を劣化させずに過ごすためには、免疫力を高い状態で維持することが不可欠なのです」


2. 免疫とストレスの関係

――その免疫力の維持を妨げる最大の要因が、ストレスなんですね?

「免疫細胞は、ストレスホルモンに即座に反応してしまうのです。肉体的・精神的なストレス、どちらでも免疫細胞は一気に萎縮し、働きが大幅に弱まります。肉体的ストレスとしては、屋外と屋内の急な寒暖差、暴飲暴食や睡眠不足などが要因になります。精神面では、普通に生活をしているだけでも、ちょっとした悩みが絶えないですよね。そのような日々のストレスをいかに回避して過ごすかが、健康を保つ鍵となります」


ストレスこそが免疫の敵!
イヤなことも考え方次第。
好きな◯◯◯に変換してストレス回避


ストレスを克服するために、イヤなことは発想の転換で楽しめるようにしています。例えば私はゲームが好きなので、仕事で苦手な相手と交渉するときは「これはゲームでいうところの経験値稼ぎだ」と考えてみる。相手(敵)の難易度が上がるほど、攻略したときのポイントも高くなってレベルアップ! 考え方を少し変えるだけで、ストレスは回避できるんです。




3. 藤原さんが発見した「プラズマ乳酸菌」とは?

――免疫の対策として、多くの人が「乳酸菌」を積極的に摂るようになりました。数ある乳酸菌の中でも注目されているのが、藤原さんが発見した「プラズマ乳酸菌」ですが、どんなものなのでしょうか?

「プラズマ乳酸菌は、免疫の司令塔であるpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)の働きを直接サポートして、活性化させる世界初の乳酸菌なんです。活性化されると、(pDCが)ほかの免疫細胞たちに「ちょっと君たち、仕事してよ」って言ってまわるんですね。そうすると、免疫システム全体(NK細胞、キラーT細胞など)が活性化するんです」

――プラズマ乳酸菌を研究することになったきっかけを教えてください。

「2005年頃、免疫の基礎研究をするためにアメリカに留学していました。人の身体には、さまざまな役割を持った免疫細胞が存在しますが、その中でもpDCが"免疫の司令塔"として重要な役割を果たしていることが、ちょうどわかり始めた時期でした。このpDCを使って、役に立つものをつくりたいと考え、帰国後、pDCを活性化する乳酸菌を見つける研究に着手しました」
※ヒトでpDCに働きかけることが世界で初めて論文報告された乳酸菌(PubMedおよび医中誌Webの掲載情報に基づく)。

実はこんな誕生秘話が!? 藤原さんに教えてもらう
プラズマ乳酸菌Q&A

Q1 プラズマ乳酸菌はどうやって発見した?

A1 一般的な乳酸菌ではpDC活性化の働きが見つかっていなかったため、誰も調べたことのない乳酸菌の中にあるだろうと仮説を立てました。世界中から、食べられないものも含めてヘンテコな乳酸菌を取り寄せ、100種類ほど調べたところで発見。たまたま食べられる乳酸菌でした。


Q2
 
発見したときの感想は? まわりからはなんと言われた?

A2 特に感激はなく、やっぱりあったなと(笑)。当時の事業の方針として免疫研究は反対されていたので、反応はゼロ。逆に社外からは「面白いね」と評価され、商品化につながりました。


Q3
 
プラズマ乳酸菌の味は?

A3 チーズのような強いにおいと味。プラズマ乳酸菌でチーズをつくるといいのになー、と思っています。


Q4
 
プラズマ乳酸菌って何がすごい?  メカニズムを教えて!

A4 pDCを活性化させるスイッチは細胞の内側にあるのですが、プラズマ乳酸菌だけがpDC内に入っていくことができ、スイッチをオンにできます。これにより活性化したpDCがほかの免疫細胞に働きかけ、免疫システム全体を活性化させるのです。


Q5
 
プラズマ乳酸菌はいつ摂れば良い?

A5 体調管理が気になる季節の変わり目や、忙しい時期などには特に意識して摂るのがおすすめ。免疫細胞の寿命は2週間と短いので、毎日続けて摂ることも大切です。



4. 日常から気をつけていること

「自分を高めることが免疫力の高さにつながる」

日々をポジティブに楽しんでいるという藤原さん。「もう歳だからと諦めないで、やりたいことをやれば、自分もレベルアップできる。そうすると免疫のポテンシャル(力)も自然と上がっていきますよ」


私も毎日実践しています!
日常から行う免疫対策のすすめ


免疫力を維持するためには、適度な運動がおすすめです。私の場合は週3~4日、10kmほどランニングをしています。やりすぎると逆に免疫力が下がってしまうので、自分に合った運動量・種類を見つけることが肝心です。食事はなるべく野菜をとるように心がけ、腸内環境を整えています。あとは、趣味のゲームでストレスを発散することですね




5. 今後の展望

――最後に、藤原さんが今取り組んでいる研究や、今後目指していることについて教えてください。
「現在、WHOと共同で、アフリカの子どもたちの健康支援のプロジェクトを検討しています。WHOが今行っている健康面の支援では、物資や人員の管理や不足、費用の問題など、大きな課題があります。そこで、室温でも流通できて、支援しやすいプラズマ乳酸菌の粉末に着目。例えばビスケットなどに加工すれば、子どもたちに手軽に届けられるのではないかと考えています。実現できるといいんですが...」

――プラズマ乳酸菌とは別に、ファンケルと共同で「白麹(しろこうじ)ステロール」を配合した商品も開発されていますね。
「はい。アメリカ留学時代、日本人の肌の美しさに改めて気づき、日本ならではの食生活が関与しているのではないかと着目しました。研究を重ねた結果、発酵食品に含まれる白麹菌の成分が、美肌機能にかかわることを発見、『白麹ステロール』と名付けました。現在は、『ビューティブーケ』という化粧品として販売しています。今後は食品も開発し、内側と外側からケアする"内外美容"の展開を目指していきたいです」



イラスト:寺澤ゆりえ

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