知ってて良かった!健康への第一歩 ヘルスケア

 INDEX 

夜中や早朝に目が覚めて、もっと寝ていたいのになかなか寝つけないと悩んでいませんか。
そんな悩みについてスリープドクターに詳しくお聞きしました。


夜中に目が覚めるのはなぜ?」Q&A


夜中に目が覚めることが多くなりました。主な原因として何が考えられますか?

加齢による睡眠力の低下が主な原因です。女性ホルモンとも関係があります。

夜中に目が覚めて眠れない、まだ起きる時間ではないのに早朝に目が覚める...。それらの原因のひとつには、深い睡眠をとるために必要な「睡眠力」が加齢などによって低下していることが考えられます。睡眠力が低下すると浅い眠りが多くなり、尿意や音、光などのちょっとした刺激で目が覚めてしまうのです。

睡眠は、夢を見ている「レム睡眠」(浅い眠り)と、ほとんど夢を見ない「ノンレム睡眠」(深い眠り)がセットになり、約90分周期で繰り返されます。ぐっすり眠れているかは、深い眠りである「ノンレム睡眠」が多くとれているかがカギです。

また、女性ホルモンの減少も睡眠力を低下させるため、男性よりも女性の方が影響を受けやすいといえます。年齢を重ねて女性ホルモンが減少すると、寝つきの悪さなどの睡眠の悩みを感じる女性が多いのはそのためです。

私たちは子どもの頃から「8時間は寝ないといけない」と思い込んでいる傾向にあります。しかし、睡眠力が低下すると8時間ぐっすり眠ることは困難です。中高年が抱える睡眠の悩みは、8時間睡眠が理想と思い込み、必要以上に布団の中にいることが原因ともいえます。ある研究データによると、死亡率が最も低く、体に最も負担がかかりにくい睡眠時間が7時間であるということがわかっています。無理をせずに7時間睡眠を目安にしましょう。


睡眠力はスキーをするのに例えられます

睡眠力があるということは、スキー場の高い位置から滑ることができる状態です。

睡眠力があると...
高い位置から滑り出すことになり、滑るときに勢いがあり、簡単には止まらない。
長い距離を滑ることができる
⇒朝までぐっすり眠れる(7時間以上眠ることができる)

睡眠力が低下すると...
低い位置から滑り出すことになり、勢いがつかずに途中で止まってしまう。
あまり長い距離を滑れない。
⇒途中で目が覚める(7時間以上眠ることはできない)



夜中にトイレに行きたくなって目が覚めてしまうのは、どうして?

夜中に尿意を我慢するために分泌される「抗利尿ホルモン」が、加齢で減少するからです。


尿の量を減らす作用を持つ抗利尿ホルモン「ADH」は、年齢に応じて分泌量が変わります。まず、赤ちゃんのときには「ADH」が分泌されません。そのため、尿の量を少なくできず、いつもおねしょをしてしまうため、おむつをしています。その後、成長するにつれて「ADH」が多く分泌されるようになると、寝ている間の尿の量が減り、おしっこを我慢できるようになります。しかし、さらに年を重ねると「ADH」の分泌量は減っていきます。そのため、赤ちゃん同様に、尿の量を少なくできなくなるのです。加齢に伴い、夜間頻尿に悩む方が増えてくるのはこのためです。

夜中にトイレに行く回数が多くて困っている方は、水分をたっぷり摂るのは夕食までにして、寝る前の水分摂取量を控えましょう。ただし、脱水の心配がある方は、寝る直前に飲む水をコップ1杯程度にしておくと良いでしょう。

夜間頻尿でトイレの回数が多い場合は、睡眠や健康に影響が出てしまいます。気になる方は専門の医療機関を受診するようにしましょう。



できるだけぐっすり眠るためには、どのような対策がありますか?

日中の過ごし方が重要。寝室や寝具のちょっとした工夫も効果的です。


一日中、家でゴロゴロしていた日と、家事や仕事で忙しくしたり、外出して活発に過ごしたり、また、計算や計画などで頭を使った日では、どちらが夜ぐっすり眠れるでしょうか? 答えは、もちろん後者。睡眠とは日中の活動の「結果」であり、睡眠の質は日中の活動によって決まります。では、どんな過ごし方をしたら良いのでしょうか。


対策1
1日7000歩程度の活動をする

1日1時間7000歩程度のウォーキングは、質の良い睡眠を得るためのちょうど良い疲労感を得る運動といえます。ゴルフやスキーなどのスポーツ、仕事や家事、ボランティアで体を動かすなど、7000歩歩くのと同程度の疲労感を得られるその他の運動でももちろんOKです。日中積極的に動くことが、良い睡眠につながります。

さらに、1日7時間程度のデスクワークをするのも1日7000歩程度の疲労感を得られる活動のひとつです。デスクワークといっても、必ずしも仕事である必要はありません。読書や手芸、塗り絵などの趣味の活動も有効です。ご自身が興味のあることで、7000歩程度の疲労感を得られるデスクワークをしていきましょう。3000歩のウォーキングと4時間のデスクワークというように、組み合わせるのも良いでしょう。

私が監修した塗り絵『脳と心を癒して心地よく眠る 和の花もようのぬり絵』(日本文芸社)もおすすめです。

塗り絵に没頭することでストレス発散につながり、睡眠の質が向上します。また、体と心が程よく疲労し、リラックスできます。

対策2
午後に長い昼寝をしない

睡眠欲は、食欲と似ています。午後3時におやつをたくさん食べていたら、夕飯の時間になっても、なかなかおなかが空かないでしょう。睡眠も同じで、午後に長い昼寝をしてしまうと、夜はなかなか眠れなくなってしまいます。ただし、どうしても昼間に眠くなってしまったら、15分以内の昼寝をおすすめします。15分以上眠ってしまうと、深い睡眠に入ってしまうからです。浅い眠りのうちに起きることができる15分以内とするために、タイマーをかけてから眠るようにしましょう。

対策3
昼と夜の光を調整する

カーテンを開けて太陽の光を浴びると、朝の目覚めが良いと聞いたことはありませんか? それは、太陽の光を浴びることで、人を眠らせるホルモン「メラトニン」の分泌量が、眠気が消えるレベルまで抑制されるからです。メラトニンの分泌には、光が大きく関係します。昼間はできるだけ外に出て、太陽の光を浴びるようにすることも、夜ぐっすり眠ることにつながります。

また、メラトニンの分泌が始まるといわれている夜9時以降は部屋の照明を抑えて、明るい光を見ないようにしましょう。間接照明や、オレンジ色で温かみが感じられる「電球色(オレンジ色)」の照明がおすすめです。

夜はオレンジ色の照明や間接照明を使うことで、入眠しやすい環境を作ることができます。

対策4
夕方から夜にかけて体温を上げる

人の体は、高い体温が急激に下がると眠くなるようになっています。体温の落差が大きいほど眠くなりやすいので、普段から日常生活の中で、下記のような体温を上げる工夫をしましょう。特に、夕方から夜にかけての時間の過ごし方が影響します。

  おすすめの体温の上げ方  

・ストレッチやヨガなどの軽い運動
就寝の2時間ぐらい前に行うことで、入眠しやすくなります。

・毎日湯船につかる
就寝の1時間前くらいに入浴することで、上がった体温が寝るタイミングで急激に落ち、ぐっすり眠れるようになります。

・夕飯は熱いものや辛いものを食べる
鍋料理や、キムチや唐辛子などカプサイシンを多く含む料理は体温を上げることができます。

対策5
睡眠環境を整える

快眠を得るためには、環境を整えることも大事です。下記を参考に寝室を整えてみましょう。

■光
寝室は極力、光の量を抑えましょう。安全性を確保でき、恐怖感を覚えない程度の光が良いでしょう。

■室温
夏は27~29℃、冬は18~20℃が適温です。

■湿度
50%前後に保ちましょう。

■布団
春夏と秋冬で、寝具は変えてください。掛け布団は、夏は夏掛け、冬は羽毛布団に。敷き布団は、背骨がS字になるような硬さのものを選びましょう。硬すぎると体が浮いてしまい、やわらかすぎると体が敷布団に沈んでしまいます。

■枕
ホテルの枕を思い出してください。ほとんどがふわふわとしてやわらかい枕ですよね。なぜ、やわらかいのでしょうか? それは、ホテルが欧米から来た文化だからです。外国人の基本的な寝姿勢はうつ伏せで、やわらかい枕の方が適しています。しかし、日本人はうつ伏せ寝をする方は少なく、また、昔からうつ伏せ寝には適さない高枕やそばがらの枕などを使っていました。

あおむけ寝には、首の後ろをしっかり支える硬い枕の方が適しています。首を支える形状の枕なら、立ったときと同じように背骨がS字になり、体の負担を軽減します。首のしわもつきにくくなるというメリットも! 自分の骨格に合った枕を探すと良いでしょう。

■寝るときの服装
パジャマを着ましょう。短パンとTシャツでも構いません。ただし、手首と足首の部分がすぼまっている「スウェット」はおすすめできません。人は、手足で熱を放出して全身の体温を下げていますが、スウェットで手首や足首が締めつけられていると、その部分に熱がこもり、全身の体温調節を妨げてしまうのです。



夜中に目が覚めてしまったときの対処法は?

そのあとの眠りに影響しないよう、照明を工夫しましょう。

夜中や早朝に目が覚めたときに眩しい光を見てしまうと目が冴えてしまい、寝ようと思っても、なかなか眠れなくなることがあります。また、トイレまでの通り道が暗いと転倒のリスクがあります。できれば明かりはつけたいところですが、照明に工夫が必要です。その後、なかなか寝つけないときも、部屋を明るくせずに布団の中で過ごしましょう。

寝室からトイレまでの通り道に、足元だけを照らすダウンライトを使用するのがおすすめです。人が通ると電気がつくような、人感センサー機能があると便利です。また、トイレ内の電気も、夜はあたたかみのある「白熱灯」が灯るようにすると良いでしょう。



足が冷えてなかなか眠れないときは、どうしたら良いですか?

靴下を着用して眠ってもOKです。使い古しの脱ぎやすいものが良いでしょう。


足が冷えて眠れない場合は、靴下を着用して寝てもOKです。足が冷たいと感じている方は、皮膚の毛細血管の血流が滞っている可能性があります。靴下で温めることで血流を改善することにつながります。これまでご説明してきたように、人は高い体温が急激に下がるときに眠くなります。体温を下げるには手と足からの熱を外に出すことが大事ですが、手足に冷えを感じたままだとこの作用がうまくできないのです。

できれば靴下は使い古したもの、ゴムが緩いものがおすすめです。眠っているときに暑いと感じたら脱ぎやすいものが良いですね。


まとめ


年齢に伴い、変化する睡眠力。睡眠時間は実は7時間が理想的なので、夜中に目が覚めるという方は無理して長く眠ろうとしていないか振り返ってみると良いですね。朝までぐっすり眠れるよう、昼間の過ごし方や睡眠環境を変えてみましょう。手足を締めつけないパジャマに着がえて寝ることもポイントの一つです。


今月の監修者遠藤 拓郎(えんどう たくろう) 先生 医学博士/スリープクリニック調布 院長、スタンフォード大学医学部客員教授、日本睡眠学会総合専門医。著書に『75歳までに身につけたいシニアのための7つの睡眠習慣』(サンクチュアリ出版)など。

イラスト:本田佳世

バックナンバー BACK NUMBER

バックナンバー一覧