知ってて良かった!健康への第一歩 ヘルスケア

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今までのように食事を楽しめなくなってきた、と感じていませんか。
その原因やどんな対策をしたら良いのかなど、管理栄養士の森由香子先生に詳しくお聞きしました。



食が細くなるのは、なぜ?」Q&A


食が細くなる理由はなんですか?

体の機能や、活動量の低下などが原因です。


加齢に伴い、食が細くなる理由は、以下のようなことが複雑に絡み合って生じています。

理由1
胃腸機能の低下で、胸やけやお通じがすっきりしなくなる

これまでは平気だったのに、最近になって揚げ物で胸やけを起こすようになっていませんか? それは、年齢とともに少しずつ胃腸機能が低下し、消化・吸収の力が衰えていることが一因です。また、食べたものを消化して排便を促す胃腸のぜん動運動も低下するため、便秘が起こりやすくなります。便秘になるとお腹が張って、食欲が低下しやすくなります。

理由2
骨密度や筋肉量が減って口腔(こうくう)機能の低下が起こり、食事がしにくくなる

年齢を重ねると全身の筋肉量や骨密度が減りますが、口まわりに起こると、噛んだり、飲み込んだり、話したりするための口まわりの機能(=口腔機能)に影響します。具体的には、硬い物が食べにくくなったり、食べ物を飲み込むのに時間がかかったり、むせたりと、うまく食事ができなくなります。すると、食べられるものが制限されたり、食事をするときに疲労感を感じやすくなるため、しだいに食が細くなる方も少なくありません。

理由3
活動量が減ることで食欲が低下する

活動量が減ると、自然と食欲が低下します。さらに、栄養が不足して筋力が衰え、ますます活動量が減るという悪循環におちいることもあります。

理由4
ストレスなどで自律神経が乱れ、食欲が低下する

ストレスで食事が喉を通らなくなった経験はありませんか? それは、ストレスで自律神経が乱れることで起こります。疲れが溜まっていたり、夜更かしが続いて睡眠リズムがくずれたりしても、自律神経が乱れて食欲が低下することがあります。



年齢とともに食事の量は減らした方が良いですか?

食事の量は減らさず、むしろ積極的に食べましょう。

厚生労働省による「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、エネルギー量や栄養素の目標摂取量は、年代による差はほとんどありません。むしろ、年齢を重ねると栄養の消化・吸収力が落ちるため、食べる量を減らさずに積極的に食べるようにした方が良いといえます。


1日あたりの推定エネルギー必要量は20歳、40歳、60歳を比べても、さほど差はありません。
※厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに作成



食事量が減るとどんな健康リスクがありますか?

疲れやすくなる、誤嚥(ごえん)しやすくなるなどの恐れがあるといわれています。


食事の摂取量が減ると、体内の栄養が不足して次のような不調やリスクが生じる可能性があります。

不調・リスク1
体力や免疫力が低下する

栄養やエネルギー不足が起こると、体力が下がり、疲れを感じやすくなります。また、筋肉量も低下しやすくなり、免疫力も低下します。老化も加速しやすく、見た目が実年齢よりも上に見えてしまう方もいるかもしれません

不調・リスク2
骨の健康リスクが高まる

たんぱく質やカルシウム、ビタミンDなどの骨をつくるために必要な栄養素が不足すると、徐々に骨密度が低下します。骨密度は年齢を重ねるにつれて低下するため、骨折しやすくなります。

不調・リスク3
誤嚥しやすくなる

骨が痩せていくのは、全身の中でも頭蓋骨や顔やあごからだということがわかっています。あごの骨が痩せると噛み合わせが悪くなり、食べにくさを感じやすくなります。さらに、喉まわりの筋力も低下するため、食事をしたときにむせたり、誤嚥をしやすくなります。

認知症との関連も注目されています

認知症の中でも、全体の約2割を占める「血管性認知症」は、ビタミンB12不足によっても起こりやすくなると考えられています。植物性食品が中心で、動物性食品が少ないなどの偏食の状態だと、ビタミンB12も不足しやすくなるため、認知症のリスクが高まると考えられています。また、アルツハイマー型認知症の発症と関連が深いとされる成分「ホモシステイン」も、ビタミンB12が不足すると増えやすくなるといわれています。ビタミンB12は、植物性食品にはほとんど含まれていません。豊富な食材には、さんま、いわし、さばなどの魚があります。これらを積極的に摂取すると良いでしょう。

栄養不足による不調を回避するためにも、毎日の体重計測が大切です

最近、食が細くなってきたと感じたら、上記のようなリスクを回避するため、さまざまな対策をしていきましょう。まずは、毎日、決まった時間に体重測定をして、ご自身の健康状態を確認することをおすすめします。急激な体重減少があれば、なにか病気が隠れていることもあるため、自己判断はせず医療機関を受診してください。



食が細くなっているときの食事の注意点は?

たんぱく質不足をおぎなう対策が必要です。

食が細くなったときに気をつけたいのが、肉、魚、卵、大豆製品などのたんぱく質の摂取不足です。筋力低下が起こらないよう、毎日元気に過ごすためにも、たんぱく質をしっかり摂ることが大切です。今から、以下のような食習慣を身につけておくことをおすすめします。

対策1
主食・主菜・副菜を意識する

「朝食はパンだけ」「お昼はうどんだけ」といった単品メニューでは、たんぱく質不足になります。食事を作るときや選ぶときは、できる範囲で良いので、「主食」「主菜」「副菜」を考えて、食事メニューを考えるようにしましょう。

対策2
ご飯、パン、野菜より先に、魚や肉を食べるようにする

ご飯やパンから食べてすぐにお腹がいっぱいになってしまい、おかずを食べきれなくなってしまう方も多いのではないでしょうか。お腹がいっぱいになる前に、たんぱく質を多く含む、肉や魚などのおかずから食べることをおすすめします。

対策3
1日5食でもOK。食事の回数を増やす

一般的に推奨されているのは「1日3食」ですが、1回あたりの食事量を減らして、1日5食にするのも良いでしょう。朝食の量が多くて残してしまったら、その残りを間食として、時間をおいて食べるのもおすすめです。

昼食で残ったご飯をおにぎりにして、その後の間食で食べるのも良いでしょう。

対策4
たんぱく質の多いおやつを間食にする

間食でたんぱく質をおぎなうと良いでしょう。卵を使ったプリンやカステラ、肉の入った肉まんなど、たんぱく質食品が摂れるおやつをおすすめします。



1日に必要な栄養を摂るための食事選びのポイントは?

「か・き・く・け・こ・や・ま・に・さ・ち」®を合言葉に食材を摂りましょう。

「ま・ご・わ・や・さ・し・い」という言葉を聞いたことがありませんか? 積極的に食べておきたい食材を覚える合言葉としてよく知られている言葉です。しかし、私は「ま・ご・わ・や・さ・し・い」だけでは、肉類や穀類、乳製品や果物などが足らず、栄養バランスは十分ではないと考えました。そこで、考案した合言葉が「か・き・く・け・こ・や・ま・に・さ・ち」®です。海藻の「か」や、きのこ類の「き」など、1日に食べていただきたい食材の頭文字になっています。ぜひ、これらの食材を取り入れてみてください。

「か・き・く・け・こ・や・ま・に・さ・ち」®=か/海藻 き/きのこ く/果物 け/鶏卵 こ/穀類・芋類 や/野菜 ま/豆類(大豆)・種実類 に/肉 さ/魚(魚介) ち/チーズなどの乳製品・牛乳



食欲を増進するためにできることはありますか?

料理の手間を省いたり、外食をすることをおすすめします。

対策1
料理を今よりもっと簡単にしてみる

食が細くなると料理を作るのもおっくうになるかもしれません。そんなときは、レトルト食品やカット野菜など、料理の手間が省ける食品を活用してみてはいかがでしょうか。また、料理をする気力が湧かないときは、無理をせずカップラーメンを食べても良いと、私は考えます。そのときも、卵を入れてみるなど、たんぱく質食品をおぎなう工夫をすると良いでしょう。

対策2
料理や食事の環境を変える

食欲を増進させるために、家族や友人など誘って食事をするのもおすすめです。外食で気分が変わったり、会話が弾むと食欲が増進しやすくなります。いつもとは違うスーパーマーケットで買い物をしてみたり、デパ地下を覗くだけでも、料理や食事への意欲が高まるかもしれません。また、料理を盛り付けるお皿を変えてみるだけでも気分が変わるものです。料理がしたいと思えるように、キッチンの模様変えや料理教室に通い始めてみるのも良いかもしれません。



これまで食欲旺盛だった夫が、食が細くなったときに気をつけたいことは?

昼食の内容を聞いて、夕食作りの参考にしてみては?

男性は、女性よりも食事や栄養に無頓着な方が多い傾向にありますよね。奥様が、ご主人やお子様の食事や健康を管理することは、とても大切なことだと思います。働いている男性の場合、時間がなく、昼食は蕎麦や牛丼だけなど、簡単にすませがちです。ご主人が、昼食に何を食べたかを確認しておき、1日の食事の栄養バランスが整うように夕食の献立を考えると良いでしょう。

まとめ


加齢やストレスなど、さまざまな要因が絡み合って、食は細くなっていきます。今から栄養バランスの良い食事を続けていけば、体力や気力もアップし、食が細くなるという悩みがだんだんと解消されていく場合もあるようです。特にたんぱく質不足に注意して、「か・き・く・け・こ・や・ま・に・さ・ち」®の合言葉などを参考に、健康的な食生活を送るよう、心掛けるようにしましょう。


今月の監修者森 由香子(もり ゆかこ) 先生 管理栄養士、日本抗加齢医学会指導士/『ずっと元気でいたければ60歳から食事を変えなさい』(青春出版社)、『料理が苦手でも、ひとり暮らしでもできる! 100年長生き食』(Gakken)などの著書で、食事からのアンチエイジングを提唱している。

イラスト:本田佳世

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