
電車やバスなどで突然、咳が止まらなくなるのは、なぜ?
人混みや静まり返った場所で咳込んでしまい、気まずい思いをしたことはありませんか? 呼吸器は空気中のほこりやウイルス、花粉などを吸い込み、常に刺激にさらされています。突然の咳を未然に防ぐためにも、原因や対策について知っておきましょう。
INDEX
空気中の刺激物質に過敏に反応したことが一因です。
咳は、喉や気道にある咳受容体が、異物や刺激を探知し、排除しようとする生体防御反応です。電車やバスなどの人混みで、突然「コンコン」と乾いた咳が止まらないのは、乗客の香水のにおいや、エアコンの冷気に気道が刺激されることが一因でしょう。また、映画館のような静かな場所で咳が止まらないのは、咳を抑えようとする心因性ストレスによるものかもしれません。
ただし、健康であればこうした咳は誘発されにくいため、咳に潜む疾患のサインだと捉えましょう。例えば、季節の変わり目に出る咳は、春に飛散する花粉やPM2.5、秋に増えるダニなどのアレルゲンによる可能性があります。アレルギー反応が起こると、鼻や気管支の免疫系マスト細胞から炎症物質が放出され、その刺激を繰り返し受けることで、咳喘息の発症につながります。長く続く咳に悩む方は、医療機関を受診しましょう。

新実先生にお聞きしました!
咳に関するあれこれ
未然に咳を防ぐために、できる対策を教えてください。
生活習慣を正し、風邪を引かないように心がけましょう。
風邪の後に咳だけが残り、長引くことがありますよね。8週間以上続く咳は、慢性咳嗽(がいそう)と呼ばれます。咳を未然に防ぐためには、過労を避け、十分な睡眠をとり、免疫力を高めて、風邪を引かない生活習慣を心がけることが大切です。風邪による咳なら、トローチや喉飴、はちみつ、水などを口に含んで喉の奥をうるおすと、気道を刺激から守ってくれます。ガムをかんでも良いでしょう。
また、鼻呼吸を意識することも大切。鼻を通すと空気が保温・加湿され、気道にやさしい湿った空気が気管支に送り込まれます。
加齢と咳は関係がありますか?
咳反射の衰えにより、咳が出にくくなることも。
一概に、加齢で咳が出やすくなるとはいえませんが、女性は男性に比べて咳受容体の感受性が高く、咳が出やすい傾向があります。実際に咳が長引き、私たちの呼吸器内科を訪れる方の多くは、中高年の女性です。
加齢による咳は、身体機能の衰えを指すフレイル※に関連します。フレイルの初期は、嚥下(えんげ)の衰えから唾液や食べ物が食道ではなく気管に入る、誤嚥(ごえん)によって咳が起こりやすくなります。逆に、フレイルが進むと咳が出にくくなるため、誤嚥した場合のリスクが高まります。
※フレイル......虚弱を意味する言葉で、加齢に伴う筋力の衰えや認知機能の低下などにより、体力や気力が弱まっている状態のことを指します。
どのような咳の症状があったら、病院を受診した方が良いですか?
咳以外の症状にも目を向けることが大切です。
咳とともに、発熱、血痰(けったん)、体重減少、食欲低下などの症状があれば、病気が潜んでいる兆候になります。咳の原因として最も多い疾患は風邪ですが、多くの場合3週間以内、長くても8週間以内に咳の症状は治まります。風邪の後に咳だけが3週間以上続くようなら、咳喘息の可能性を考えてみましょう。
また、睡眠時の咳は要注意です。通常、健康な方であれば、咳反射が低下する睡眠中に咳が出ることはほとんどありません。ゼーゼー、ヒューヒューと喘鳴(ぜんめい)があり、呼吸困難を伴う場合は気管支の異常を知らせるサイン。早めに医療機関を受診してください。
病院の受診を検討すべき咳の症状をチェック
1つでも当てはまる症状があれば、慢性咳嗽の専門的な診療を行う呼吸器内科をはじめ、適切な医療機関の受診を考えましょう。
✓ 咳のほかに発熱が引かない
✓ 咳と同時に血痰が出る
✓ 咳とともに体重減少や食欲低下がある
✓ 風邪の後に、3週間以上咳が続いている
✓ 睡眠時に咳が出る
✓ 呼吸時にゼーゼー、ヒューヒューと胸の音が聞こえる
コラム
咳が出る体のメカニズム
ほこりなどが体内に入ると、咽頭(いんとう)や空気の通り道である気道(気管、気管支)の咳受容体が異物を探知します。その信号が脳の咳中枢に伝わると、咳を起こす命令が生じ呼吸器に伝達、咳を出す反射を起こすのです。これは「咳反射」と呼ばれ、疾病を伴う咳ではさらに大脳が関与して自発的な咳を起こします。

イラスト:本田佳世