知ってて良かった!健康への第一歩 ヘルスケア

 INDEX 

膨大な記憶が溜まり、見つけにくくなるからです

久々に会う知人の名前を思い出せないのは、加齢に伴うもの忘れなので心配ありません。年とともに記憶の量が増えると脳内の棚があふれ返り、誰しも情報を取り出しにくくなるのです。
体験したことを覚えるエピソード記憶は、①出来事を記憶の塊として覚える「記銘」、②その塊を脳内の棚にしまう「保持」、③必要に応じて記憶を取り出す「想起」の3ステップを踏みます。中でも新たな出来事を覚えられない、①の記銘の不具合であれば要注意です。数日前の夕飯の献立が思い浮かばないのは、きっかけ次第では思い出せる③の想起のトラブルですが、夕飯を食べたこと自体を忘れるなら①にかかわるため、認知症予備軍の可能性があります。早めに専門医に相談をしましょう。





内田先生にお聞きしました!

もの忘れに関するあれこれ


気をつけた方が良い、認知機能低下の兆候を教えてください。
料理の段取りや車の運転が苦手になったら気をつけましょう。

記憶をはじめ、思考、理解、判断を行う脳の知的な能力は認知機能といわれ、これらの機能が低下すると日常生活に支障をきたします。認知機能の低下を引き起こす病気は約70以上にものぼり、多くはたび重なるもの忘れから始まります。車幅を把握して車庫入れをする空間認知能力や、料理のように複数工程を同時に行う作業記憶のほか、様々な認知機能の低下が感じられたら、まわりの方に伝え、様子を気に掛けてもらうようにしましょう。

見過ごせない認知機能低下の兆候をチェック

当てはまるものが多いほど、見過ごせない認知機能の低下が進んでいる可能性があります。

✓ 車庫入れで車を傷つけることが多くなった


✓ 料理が苦手になり、おかずの品数も減ってきた


✓ 同じ調味料や食材を買い込んでしまう


✓ 電車やバスでよく乗り過ごすようになった


✓ 申請書などの書類の作成が難しくなってきた



もの忘れが進みやすくなる原因にはどんなことがありますか?
聞こえにくさや、口腔状態が影響することがあります。

口腔状態は全身の健康にも関連し、歯周病菌が脳に移行すると、もの忘れなどの認知症を進行させることが研究でわかっています。こまめに歯磨きをしても磨き残しがあれば歯周病になりやすいので、定期的に歯科検診を受け、口の中を清潔に保つケアをしましょう。
また、耳から入る情報が減少すると、認知機能が低下するリスクも高まります。年とともに聞こえにくさを感じる方は増えますが、聞こえの問題は放置せず適切に調整された補聴器の利用を検討してください。



もの忘れを防ぐために、脳を健康に保つ対策はありますか?
スマートフォンの新機能にチャレンジしてみましょう。

新しいことにチャレンジすると脳が活性化するため、多機能のスマートフォンを駆使することはまさに"脳トレ"です。さらに、リマインド機能が薬の時間を知らせてくれたり、地図アプリが今いる場所を教えてくれるなど、今後の生活の支えにもなり、相棒のような役割も期待できるのです。
また、もの忘れの原因となる病気には、甲状腺の機能低下や、アルコールを多く摂取する方に多いビタミンB₁₂欠乏症といった、治療で回復が見込めるものも含まれます。早期診断が大切ですので、不安な方は日本老年精神医学会や日本認知症学会に所属する専門医のもとで検査をしましょう。

コラム

内田先生が提唱している
「早合点(はやがてん)認知症」とは?

重度に偏りすぎたイメージが定着し、多くの方に誤解され過度に恐れられている認知症観を「早合点認知症」と呼んでいます。「認知症には治療法がない」と早合点されたり、本人や家族が過度に落ち込んだり、社会的孤立をまねくことがあります。不安に振り回されず、正しい情報をもとに、予防や早期対応を心がける姿勢が大切です。



今月の監修者内田 直樹(うちだ なおき)先生 認知症専門医、精神科医、医学博士、医療法人すずらん会たろうクリニック院長/著書に『早合点認知症』(サンマーク出版)、編著に『医師・看護師のための 認知症プライマリケアまるごとガイド』(中央法規)がある。

イラスト:本田佳世

バックナンバー BACK NUMBER

バックナンバー一覧