
産後のホルモンバランスの変化で何が起きる? 整え方もわかりやすく解説
産後のママは、ホルモンバランスに急激な変化が生じることで、心身ともに不調をきたしやすくなります。ここでは、産後にどのようなホルモンの変化が起こるのかを説明するとともに、起こりやすい心身の不調についてお伝えします。
また、産後をすこやかに過ごすためにも、産後のホルモンを整える方法について紹介もしていますので、ぜひ参考にしてください。
1. 産後のホルモンバランスの変化とは?
妊娠から産後にかけて、女性の体はダイナミックな変化を遂げますが、それらはさまざまなホルモンの働きにより支えられています。
妊娠期は胎児の成長とママの妊娠を維持するため、エストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンが大量に分泌されますが、出産により胎盤が剥がれるとその分泌量はほぼなくなります。
一方、産後は乳腺刺激ホルモンといわれるプロラクチン(下垂体ホルモン)や母乳の分泌を促したり、子宮を元の大きさに戻す働きのあるオキシトシン(女性ホルモン)の分泌が顕著になります。出産直後から急激なホルモンバランスの変化が起きるため、体にさまざまな変化や影響を及ぼすことがあるのです。
2. 産後のホルモンバランスの変化で起きること
産後のホルモンバランスの変化によって、心身にさまざまな症状があらわれることがあります。あらわれる症状や程度には個人差があるため、ママだけではなく、家族やまわりの人もほかのママと比べないようにすることが大切です。
ここでは、産後のホルモンバランスの変化で起こる症状をご紹介します。
ささいなことでイライラする
産後の急なホルモンバランスの変化に体がすぐに適応できず、自律神経が乱れ不安定な精神状態になることがあります。その結果、産後はささいなことでイライラしたというママも多いです。
このような精神状態が続く時期を最近では「ガルガル期」と呼ぶこともあります。「ガルガル期」は医学用語ではありませんが、産後のホルモン変化のほかに、出産によって環境や身体が大きく変化することなども原因で起こるとされています。産後1~3ヵ月の時期にみられることが多く、必要以上に攻撃的な態度をとってしまう、警戒心が強くなって感情のコントロールができなくなるのもそのひとつです。これは動物の本能である「子どもを守ろう」とする防御反応ともいわれています。また、産後のホルモンの変化が原因で起こるマタニティーブルーの症状の一種とされています。
急に悲しくなったり不安になったりする
産後のホルモンバランスの変化による自律神経の乱れで、不安や抑うつなどの症状を起こすこともあります。特に初めての出産や育児のサポート環境が不十分なママなどは、母親としての強い責任や将来に対する不安を感じやすくなり、症状が強くあらわれることがあります。
肌あれやたるみ、シワができる
産後は、妊娠中に大量に分泌されていたエストロゲンという女性ホルモンが急激に減少します。肌の弾力性やうるおいを保つ働きがあるエストロゲンがなくなると、肌が乾燥しやすくなり、シワやたるみなど肌トラブルが起きやすくなってしまいます。
抜け毛が増える
妊娠を維持するために重要なエストロゲンとプロゲステロンは、髪の成長を促し保持する働きがあります。出産後はこれらのホルモンが急激に減少し、妊娠中に抜けなかった髪が一度に多く抜けてしまうため、抜け毛が一時的に増えてしまうことがあります。
眠りにつきにくくなる
産後の急なホルモンバランスの変化による自律神経の乱れは、睡眠の質やリズムに影響を与え、疲れているのに寝付きが悪くなることがあります。
加えて、産後しばらくは赤ちゃんのお世話で十分な睡眠がとれず、体も心もずっと緊張した状態が続いてしまうこともあります。そのため、質の良い眠りへと移行することが難しくなり、不眠の状態を招いてしまうのです。
疲れがとれない
出産の疲労が回復しないなか、赤ちゃんのお世話による睡眠不足で、産後2~4日目あたりから疲労を強く感じます。また、少し休んだだけでは疲れがとれず、より疲れやすい状態になることがあります。
尿モレが起きる
産後は、分娩により子宮や膀胱などの臓器を支える骨盤底筋群が緩んでしまい、尿道まわりの筋肉や神経が伸びてしまうことなどが原因で尿モレが起こりやすくなります。
加えて、産後のホルモンバランスの変化も尿モレに大きく関わっています。妊娠中に多く分泌されるエストロゲンは、尿道の筋肉に張りを持たせ尿道を支える役割を担っています。しかし、産後はエストロゲンが急激に減少してしまうため、尿道の筋肉が緩みやすく、尿モレが起こりやすい状態になるのです。
デリケートゾーンの悩みが起きやすい
産後、肌のハリやうるおいのもととなるエストロゲンが減少してしまうことで、デリケートゾーンも乾燥しやすくなります。産後しばらくは、悪露(おろ)の排出でナプキンを装着するため、その摩擦や刺激も重なり、デリケートゾーンのかゆみやヒリつき、黒ずみが生じやすくなってしまいます。また、膣のうるおいの低下で性交痛が起こることもあるかもしれません。
さらに、エストロゲンは膣の環境を整え自浄作用のある膣フローラの一種、ラクトバチルス菌の生成に大きく関与しています。産後はラクトバチルス菌の減少し、膣内のpHバランスがくずれることなどが原因で膣炎が引き起こされることもあります。
生理が不安定になる可能性がある
産後に分泌されるプロラクチンは、乳腺を刺激し母乳をつくる働きをするだけではなく、卵巣の働きを抑えて排卵させないようにする役目があります。プロラクチンは授乳にかかせないホルモンですが、分泌が多いと排卵が起きないため、「生理がこない」「生理が不安定」な状態が続きます。生理の再開時期には個人差がありますが、一般的には産後1年までにはホルモンバランスが妊娠前に戻るため、通常の生理がみられるようになってくるでしょう。
3. 産後のホルモンバランスの乱れはいつまで?
産後のホルモンバランスの乱れがいつまで続くのか、不安になる方もいるでしょう。最もホルモンバランスの変化が大きく心身に影響を与える時期は産後3日~5日くらいです。そのピークを過ぎると、個人差はありますが徐々に体調不良やメンタル不調が落ち着いてくるようです。
産後1ヵ月すると赤ちゃんとの生活に順応できるようになり、産後3ヵ月ぐらいになると赤ちゃんのお世話にもだいぶ慣れてくるでしょう。離乳食がはじまるくらいの生後5〜6ヵ月頃には、赤ちゃんが長く寝てくれることも期待できそうです。それにともないママの体調も少しずつ元に戻っていくと考えられます。
4. 産後のホルモンバランスを整えるためにできること
産後のホルモンバランスを整えるため、意識してほしい産後の過ごし方についてご紹介します。心身ともにすこやかな状態で産後を過ごすためにも、無理はせずできるものから取り入れてみましょう。
産後は少しずつ元の生活に戻す
産後のママの体は、妊娠・出産でダメージが残っている状態です。体が妊娠前に戻っていく期間のことを「産褥期(さんじょくき)」といい、産後6~8週間までのことを指します。
産褥期は体を休ませることを優先し、ホルモンを整えて心身回復を図ることが大切です。産褥期に無理をしてしまうと、ホルモンの乱れが長引くことなどにより、その後の心身の健康にも影響を及ぼしてしまう可能性があります。
出産後は、以下を目安にして少しずつ元の生活に戻していきましょう。
■産後1~2週間
産後2週間までは、出産のダメージが強く残っている時期です。授乳など赤ちゃんのお世話は必要最低限にし、そのほかの育児や家事はまわりの家族に頼むなどしてママの回復を優先しましょう。昼夜問わず、赤ちゃんが寝ているときには一緒に休むことも大切です。例えば、上の子のお世話などで眠ることができない場合は、少しの間でも目を閉じて横になるなどして産後の体を休ませてあげることを意識しましょう。家庭の事情により家族に頼むのが難しい場合は、食事の宅配や利用できる産後ケア・サービスを調べておくと良いでしょう。
■産後3~4週間
少しずつ体は回復してきますが、まとまった睡眠はとりにくいため、育児の疲労が蓄積している状態です。体を休ませることを優先しながら、無理のない簡単な家事から行なうようにし、少しずつ体を慣らしていきます。家事のレベルは妊娠前を目指すのではなく、時短家電なども活用しながら体への負担を最低限にすることを意識しましょう。またママの体調をみながら、赤ちゃんとお散歩する時間をつくるのもよいでしょう。最初は短時間で近所のお散歩をしてみるのがおすすめ。ママがリフレッシュできるだけではなく、赤ちゃんの五感を刺激してくれるいい機会になりますよ。
■産後5~8週間
産後1ヵ月健診を終える頃には、赤ちゃんのお世話にもだいぶ慣れ、体も回復したと感じるかもしれません。しかし、妊娠前の体まで回復するには、産後3ヵ月から1年はかかるといわれており、無理は禁物です。体調をみながら、引き続き周りの家族などにサポートしてもらって育児や家事の合間に休むことを意識しましょう。
自分だけで抱え込まず周囲にSOSを出す
産後はホルモンの変化などで、自分ではコントロールできない心身の不調をきたすことがあります。加えて、育児や家事に対する強い責任からがんばり過ぎてしまい、心身の不調を悪化させてしまうケースもあります。
産後は、赤ちゃんの安全を守るためにも、まずママの体を回復させることを優先しましょう。そして、育児はひとりではできません。ひとりで何もかも抱え込んだり、我慢をする必要もありません。産後は、自分の気持ちや抱えている不安などを「まわりの人に話す」「誰かに頼る」ことが大切です。
大事なのは、早めに相談すること。無理をしている状態が続き、産後うつの状態になってしまうと、まわりへのSOSを発することもできなくなります。ママの体やこころが悲鳴をあげる前に、なるべく早めにまわりへ相談してください。
頼れる家族や友人がいれば、スムーズなサポートが得られるよう、またすぐお願いすることができるよう、出産前から話し合いをしておきましょう。
また産後は、さまざまな心配や不安について、ついついネットで調べてしまうこともあるでしょう。ネット上には真偽が不確かな情報も多くあります。調べれば調べるほど不安になる、別の心配が生まれるなど、検索しすぎることで心身が休まらないこともあります。不安や心配があるときは、ネットで調べすぎるのは避け、周りの信頼できる人に相談しましょう。
頼れる家族がいない場合などは、出産した施設や地域の保健センターなどの相談窓口を積極的に活用してください。どんな些細なことでも構いません。相談することで、必要に応じたサポートや継続的なフォローを受けられるだけではなく、利用できるサービスや情報の紹介・今後の育児支援にもつながります。
もし、知っている人に相談できない場合やためらいがある場合は、自治体や民間企業が設置する無料の電話相談などを活用することもできます。産後に活用できるサポートやサービスを積極的に利用することで、少しでも負担の少ない産後生活を目指しましょう。
バランスの良い食事を心がける
産後のホルモンバランスを整えるためには、バランスの良い食事を心がけることも大切です。特に産後しばらくは、たんぱく質、鉄分、ビタミンなどが不足しがち。1日3食しっかり食べながら、肉や魚、卵、大豆製品などのたんぱく質の多い食材や野菜を摂ることを意識したいところ。
とはいえ、産後にしっかりとしたバランスの取れた食事を続けることはむずかしいですよね。まずは、バランスのとれた食事を「1日1食は摂る」ことを目指しましょう。
もし、栄養バランスの偏りが気になる場合は、不足しがちな栄養素をサプリメントで補うのもよいでしょう。
できるだけ睡眠をとる
産後のホルモンバランスを整えるためには、できるだけ睡眠をとることが大切。睡眠は、ホルモン分泌や自律神経にも影響を与えることが知られています。しかし、産後は赤ちゃんのお世話でまとまった睡眠をとることが難しくなります。周囲に協力してもらいながら眠れるときには昼夜を問わず眠ったり、少しでも寝つきを良くするために寝具や照明を調整したりして、睡眠時間を確保しましょう。
簡単なストレッチや体操をする
産後の簡単なストレッチや体操は、心身のリラックスを促し産後のホルモンを整える効果が期待できます。産後におすすめなのは、骨盤底筋体操。骨盤底筋とは、子宮や膀胱、直腸などの臓器を支えている骨盤の底の筋肉群で、それらを鍛えることで尿モレ対策にもなります。
骨盤底筋体操を始める目安としては、産後5日目頃から。帝王切開の場合は医師に相談してから行いましょう。
【骨盤底筋体操】
(1) あおむけに寝て、両ひざをたてて肩幅に開く
(2) 両手は手のひらを下にして体の両脇におく
(3) 息を吐きながら腰をゆっくり持ち上げる
(4) 腰をあげた状態で息を吸い、吐きながらゆっくり腰を下ろす
(5) 5回1セットを1日1セット。慣れてきたら回数を増やす
5. まとめ
産後のホルモン変化は、出産を終えたどのママにも起こります。ホルモンの変化による心身の不調の程度には個人差がありますが、産後のママのストレス状態が続くと、ホルモンバランスが整わず、不調が長引く場合や症状が悪化することもあります。
産後のホルモンバランスの変化による心身の不調を少しでも防ぐためにも、頑張りすぎず、家族やまわりを頼って、自分の体をしっかりと休ませることを優先してください。