子育てTips ママ・パパ

1. 妊娠線とは

妊娠線とは、皮膚が大きく引き伸ばされることで真皮層が断裂して生じる線状の痕のことで、いわゆる「肉割れ」と同じです。主に妊娠中の急激な体形変化などが原因で起こり、おなか、バスト、太もも、お尻などによく見られます。妊娠線は、赤みやピンク色・赤紫色としてあらわれますが、出産後は白色へと変化していきます。

一方、おへそから恥骨にかけて縦に黒褐色の線があらわれることがありますが、これは「正中線(せいちゅうせん)」と呼ばれるもので、妊娠線とは異なります。正中線は男女問わず生まれつきある線ですが、妊娠中はホルモンの影響で色素沈着が起こり目立つようになるのです。そして産後しばらくすると、時間をかけて元の色に戻っていきます。


2. 妊娠線ができる理由

妊娠線ができる理由はさまざまありますが、ここでは主な原因である2つについて詳しく説明します。

妊娠による体形の変化によって

妊娠線は、急激な体形変化によって皮膚が過度に引き伸ばされることで起こります。皮膚はいくつかの層から成り立っており、表面の皮膚である表皮は伸縮性が高く、そのすぐ下の真皮はあまり伸び縮みしないのが特徴です。

妊娠中は体形変化や体重・脂肪(皮下脂肪)の増加により、皮膚全体が通常以上に伸びた状態です。そのため、表皮の伸びに真皮が追いつけずに裂けてしまい、妊娠線が形成されてしまうのです。

ホルモンの変化によって

妊娠中のホルモンの影響で真皮が断裂しやすくなることも、妊娠線ができてしまう原因の一つです。

妊娠中は、皮膚のコラーゲン生成を抑制し、皮膚のターンオーバー(新陳代謝)を低下させる働きがあるステロイドホルモンの分泌が増加します。そのため妊娠中は、コラーゲンの生成が抑えられてしまい、真皮の弾力性が失われ皮膚が断裂しやすい状態となります。さらにターンオーバーの低下で皮膚の再生機能も弱まってしまうため、妊娠線が形成されやすくなってしまうのです。


3. 妊娠線ができやすい部位やタイミング

妊娠線は、大きくなるおなかだけでなく、脂肪がつきやすく皮膚が急激に伸びる部位にできやすいのが特徴です。例えば、バストは妊娠によって乳腺が発達し大きくなるため、妊娠線もできやすくなります。またお尻や太ももは、出産にむけて骨盤が開くため脂肪がつきやすく、妊娠線もできやすい部位になります。

【妊娠線ができやすい部位】
おなか、太もも、バスト、二の腕、わきの下、背中、お尻、など

妊娠線ができやすい時期は、急激な体形変化が起こる妊娠中期から後期にかけてです。この時期は赤ちゃんの成長が著しく、ママも食欲が増して体重が増加しやすい時期と重なります。一般的に、妊娠5ヵ月頃からおなかが大きく目立ち始めるため、それにともなって妊娠線も出現しやすくなるのです。とはいえ妊娠線の発生は個人差があるため、妊娠初期にできる人もいれば、出産までできない人もいます。


4. 妊娠線ができやすい人の特徴

妊娠線ができやすい人は主に4つの特徴があります。しかし、これらの特徴にあてはまるからといって、必ず妊娠線ができるとは限りません。ここでは、それぞれの特徴について妊娠線ができやすい理由と併せて説明します。

乾燥肌の人

乾燥肌の人は肌の柔軟性が低く、皮膚が伸びにくい特徴があるため、妊娠線ができやすい傾向にあります。

また一般的に、妊娠中はホルモンバランスの変化で肌が乾燥しやすくなり、肌が過敏になってしまいます。無意識に掻いてしまうこともありますが、搔きすぎてしまうと肌の乾燥がさらに進み、妊娠線が出現しやすくなります。

体格・骨盤が小さい人

体格や骨盤が小さい人は、もともと小さなおなかの表面積が妊娠によって大きく引き伸ばされるため妊娠線ができやすくなってしまいます。体格が小さいと、妊娠によるおなかの膨張率が大きくなり、皮膚が急激に引き伸ばされます。

また、骨盤が小さいとおなかを前方に押し出すため、皮膚への負担が大きくなります。その結果、妊娠線ができやすくなってしまうのです。

多胎妊娠の人

多胎妊娠の場合、単胎妊娠と比べておなかの膨らみが著しく大きくなります。その結果、皮膚の表面が大きく引き伸ばされることになり、皮膚の断裂が生じやすく妊娠線ができやすくなるのです。

出産経験がある人

出産経験がある人は、最初の妊娠に比べて子宮や皮膚が伸びやすく、皮膚の柔軟性は高くなります。しかし、おなかが大きくなるスピードも速くなるため、急激な膨張により皮膚が断裂しやすくなり、妊娠線ができやすい傾向になるのです。


5. 妊娠線の予防やできた後のケア方法

妊娠線予防のためにできることや、妊娠線ができた後のケアについて、気をつけるべきポイントをふまえながら解説します。

ケアはいつから始めると良い?

妊娠線は痛みがないため、見えない場所にできても気づきにくいことがあります。そのため、妊娠初期からケアを心がけていくことが大切です。つわりが治まり、おなかも少しずつ前に出始めるようになってくる妊娠4ヵ月頃から妊娠線のケアを始めていくとよいでしょう。

体重の急激な増加に気をつける

妊娠中にママの体重を適切に増やすことは、赤ちゃんの健康な成長・発育のために必要なことです。しかし、急激な体重増加は妊娠線ができやすくなるだけではなく、リスクやトラブルにつながる可能性もあるため気をつけましょう。特に、つわりが落ち着いた後や妊娠後期は体重が増えやすくなります。妊娠中は、医師や助産師の指導のもと、食事のコントロールや運動を取り入れ、自分に合った適切な体重増加を目指してください。急激な体重増加を抑えることで、肌はゆっくりと時間をかけて伸びていくため、妊娠線の予防につながります。

リラックスできる時間を確保する

妊娠線予防には、ストレスを溜めないようにすることも大切です。妊娠中は身体的にも精神的にも変化が大きく、ストレスを感じやすい時期で、ストレスによってステロイドホルモンが分泌されます。「ホルモンの変化によって」の項目で前述したように、ステロイドホルモンには皮膚のコラーゲン生成を抑制し、ターンオーバー(新陳代謝)を低下させる働きがあるため、過剰に分泌されると妊娠線の原因となることがあります。穏やかな日々を送ることは、ママと赤ちゃんの健康だけでなく、妊娠線予防にもつながります。リラックスできる時間を積極的に確保し、ストレスを上手に解消していきましょう。

保湿ケアを徹底する

妊娠線の予防とケアには、肌の保湿が重要です。妊娠中は肌が乾燥しやすく、肌の柔軟性が低下しやすくなるため妊娠線ができやすくなります。下腹部は特に妊娠線ができやすい部分でもあるため、おなか全体の保湿を意識することがポイントです。

妊娠線専用のオイルやクリームで保湿することは、肌の乾燥を防ぎ妊娠線の発生を抑えることが期待でき、できてしまった妊娠線へのケアにもなります。入浴後や朝のスキンケアタイムに、おなかやバスト、太ももなど、妊娠線ができやすい部分は特にていねいに塗りましょう。

毎日の保湿ケアを徹底することで、肌のうるおいを保つことができますよ。

マッサージを行なう

保湿しながら一緒にマッサージを行なうことは、妊娠線予防や妊娠線ケアの効果を上げることが期待できるためおすすめです。マッサージによってオイルやクリームが肌に浸透しやすくなるだけではなく、血行を促進し肌のターンオーバーも促します。

マッサージする際は、オイルやクリームなどをたっぷり手にとって、手のひらで温めた後に行ないましょう。マッサージの途中に滑りが悪くなる場合は、オイルやクリームを追加しながら行ないます。

ここでは、妊娠線ができやすい「おなか」「お尻・太もも」「バスト」のマッサージ法についてご紹介します。

おなか

おなかをマッサージする際は、やさしく撫でるように行なうことが大切。おなかが張るときは無理をせず、オイルやクリームを塗るだけにしましょう。

【おなかのマッサージ法】

(1)おへそを中心に渦巻きを描くように、外側にむかっておなか全体にオイルやクリームをなじませるようにマッサージ。時計回り、反時計まわりそれぞれ1回ずつ行なう。
(2)そけい部(左右の足の付け根部分)を上下3回ずつやさしく撫でるようマッサージ。
(3)下腹部に両手を添え、ワキ腹の方へ向かって、らせん状に5回クルクルするマッサージを3回行なう。
(4)下腹部に両手を添え、おなか全体を囲むように、大きくハートを描くマッサージを3回行なう。

お尻・太もも

お尻や太ももは、自分から見えない部分に妊娠線がつきやすいため、お尻・太もも全体の保湿とマッサージを意識しましょう。

【お尻のマッサージ法】

腰に両手を添え、お尻の外側に沿って手を下ろし、お尻を包み込むように中心から上にあげながらマッサージ。お尻全体にオイルやクリームがなじむように意識しながら5回行なう。

【太もものマッサージ法】

太もも全体にオイルやクリームがなじむように、太ももの裏も意識しながら足の付け根からひざ、ひざから足の付け根をマッサージ。これを片足ずつ往復5回行なう。

バスト

バストのマッサージの際は、乳頭や乳輪を刺激しないように心がけましょう。乳頭の刺激は子宮収縮を招いてしまいます。特に、乳房の下やわきの近くに妊娠線ができやすいため、意識して保湿をしましょう。

【バストのマッサージ法】

乳房全体にオイルやクリームがなじむように、乳輪の外側から(乳頭を避ける)乳房の外側に円をかくようにマッサージをする。時計回り、反時計まわりそれぞれ左右1回ずつ行なう。

医療機関を受診する

妊娠線は一度できてしまうと、薄くなったり目立たなくなったりすることはあっても、セルフケアだけでは完全に消すことは難しく痕が残ってしまいます。妊娠線は悪いものではありませんが、気になる場合は、産後の体調が落ち着いてから、皮膚科や美容外科に相談することよいでしょう。


6. まとめ

妊娠線は妊娠の影響で、多くの妊婦さんにできやすいものです。しかし、早めのケアを心がけることで予防も期待でき、妊娠線ができてしまっても目立たなくすることも可能です。とはいえ、妊娠線は立派に赤ちゃんを育み、頑張ったママの証。妊娠線ができてしまっても、必要以上に焦ったり、落ち込んだりする必要はありません。ママ自身の心と体を大切にしながら、今回ご紹介した妊娠線ケアも取り入れて、すこやかなマタニティライフをすごしてくださいね。

執筆・監修古市 菜緒(ふるいち なお) バースコンサルタント代表(助産師・看護師・保健師)

助産師として1万件以上の出産に携わり、8千人以上の方を対象に産前・産後のセミナー講師を務める。海外での生活を機にバースコンサルタントを起ち上げ、現在「妊娠・出産・育児」関連のサービスの提供、アドバイスを行なう。関連記事の執筆・監修、商品・サービスの監修、産院のコンサルタント、国・自治体の母子保健関連施策などに従事。現在2児の母。

バックナンバー BACK NUMBER

バックナンバー一覧