
女性ホルモンとの上手な付き合い方
更年期を経て女性の体は大きく変わります。卵巣機能が低下し、女性ホルモン(エストロゲン)がアップダウンしながら激減するため、身心に不調があらわれます。変化の時期を穏やかに、そして閉経後の長い人生を健やかに過ごすために、プレ更年期からポスト更年期の体の変化と対策について、産婦人科専門医の高尾美穂先生にうかがいました。
更年期を健やかに過ごすために
ステージに合わせて自分マネジメント
今どの地点にいるのか分けて考えてみる
更年期は、閉経前と閉経後で不調の原因が異なります。閉経前は、徐々にエストロゲンが分泌されにくくなるのに伴い自律神経の働きが不安定になり、さまざまな不調を感じることが増えていきます。不調の症状が強くあらわれるのは、閉経前の2年と閉経後の1年の約3年間ほど。それ以降は月経のわずらわしさから解放される一方で、生活習慣病や骨粗しょう症などの病気になりやすくなります。そのときどきの体の状態に合わせたケアが大切です。
女性のライフステージとエストロゲン(女性ホルモン)

*「プレ更年期」「メイン更年期」「ポスト更年期」は医学用語ではありません。
〈 プレ更年期 〉
早めの対策でぐんと楽に
いつ更年期に入ったかは、生理がなくなって1年たち、閉経が確実になってからでないとわかりません。プレ更年期は医学用語ではありませんが、40歳を過ぎたら「そろそろ更年期かな?」と備えることが大切。月経の周期が乱れ始めたら自分の体と向き合うサインです。
今はホルモン補充療法(HRT・下記Q&A参照)や漢方など、更年期の不調をやわらげる治療法もちゃんと用意されています。不調が更年期のせいなのか、ほかに隠れた病気がないかを調べるためにも、早めに婦人科の扉を叩いて検査を受けるなど、体調の変化を相談できるかかりつけ医を見つけておくことをおすすめします。
〈メイン更年期〉
大きなゆらぎを経験する時期です
エストロゲン分泌量が激しく乱高下しながら減少する大きなゆらぎの時期は3〜4年ほどで収まります。更年期の不調は多岐にわたり、個人差が大きいのが特徴です。命に直結するわけではないので、つらくても我慢してしまう人も多いのですが、体の不調を放置すると、倦怠感や不眠、憂うつ、物忘れなど心の不調につながりかねませんし、働く女性ならキャリアアップに影響するケースも。
自己犠牲を惜しまない頑張り屋さんほど、更年期症状が強くなりがちです。甲状腺疾患など、更年期症状と似ている別の重大な病気を見逃さないためにも、つらさや異常を感じたら、迷わず婦人科を受診しましょう。
〈ポスト更年期〉
これからの日々を楽しむために
エストロゲンにはコラーゲンの産生を促して血管や関節を柔軟に保ち、コレステロール値を下げ、骨を強く保つなどの働きがあります。閉経後はこの恩恵がなくなるので、できるだけ早く生活習慣を見直しましょう。
骨量は閉経とともに急激に減少します。特に下あごの骨は真っ先に減り、皮膚のたるみの原因にも。美容面からも骨量対策は欠かせません。
たんぱく質や食物繊維が豊富なバランスの良い食事を基本に、カルシウムとその吸収を助けるビタミンDやKなどの栄養素や大豆イソフラボンなどを積極的に摂ること、少し息が弾む程度の有酸素運動を心がけ、心肺機能を鍛える習慣をつけることが大事です。
──── 高尾先生に聞く!────
更年期のギモン
知らないから怖いことも知れば心が落ち着きます。「ちょっと気になる」「もっと知りたい」更年期のこと、お聞きしました。
Q. 誰でも「更年期障害」になるんですか?
A. 「ホットフラッシュ」と呼ばれる異常発汗やほてり、手足の冷え、イライラや不安感などの「更年期症状」があらわれるのは、全体の6割程度です。治療しないと日常生活に支障をきたすほどつらい「更年期障害」に当たる方は全体の3割。全体の4割の方は、月経周期の変化を感じる程度で、ほとんど不調がないまま閉経します。
Q. ホルモン補充療法(HRT)について教えて
A. 微量のエストロゲンをおぎなうことで分泌量の減少カーブを緩やかにし、更年期の症状を緩和します。飲み薬や貼り薬などのタイプがあり、エストロゲン減少によるリスクを減らし、閉経後の健康管理にも役立ちます。閉経前か閉経後早期に始めるのがベスト。骨密度の低下を防ぐ目的なら閉経後2年以内がおすすめです。
Q. 婦人科に行くなら大きな病院が安心?
A. 婦人科医なら、誰でも女性ホルモンに詳しいわけではありません。それぞれに得意とする専門性があるので、女性のヘルスケアに詳しいかかりつけ医を探すなら、専門医のいる病院かどうかを調べてみましょう。女性ヘルスケア専門医のリストは、日本女性医学学会のホームページに掲載されています。
Q. 母乳育児は骨量に影響するって本当ですか?
A. 産後は確かに骨量が減りますが、生理が戻れば回復します。一般的に更年期には母乳育児を終えて10年前後はたっていますから、閉経後の骨量に直接の影響はありません。ただ、骨量は閉経からそれほど時間がたたないうちにガクンと落ちます。生理周期がバラつき始めたら、1年に1回の骨密度測定をおすすめします。
Q. 骨盤底筋を鍛えると良いと聞いたのですが。
A. 骨盤底筋は文字どおり、骨盤の底にある筋肉で、膀胱や子宮、直腸などの臓器を支えています。エストロゲンの減少で筋肉量が落ちると骨盤底筋も弾力を失って薄くなり、尿漏れや子宮脱などのトラブルの原因になります。骨盤底筋体操や骨盤底筋を鍛えるヨガを始めるなど、閉経以前の早めの対策が大切です。
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更年期にはさまざまな不調があらわれますが、その後には充実した人生の時間が待っています。自分の体の「今」を知り、早めの対策で軽やかに乗り切りましょう。