美術監督 髙尾 克己さん

時間、空気、光を設計して 物語の世界観を形にする

#01

美術監督 髙尾 克己 さん

美術監督として30年以上のキャリアを持ち、アニメから実写まで数多くの作品を手がけてきた髙尾さん。TVアニメ『薬屋のひとりごと』ならではの美術制作のこだわりや、印象的なシーンが生まれた背景について語っていただきました。

※本記事には、TVアニメ『薬屋のひとりごと』第1期・第2期の内容が含まれます。未視聴の方はご注意ください。

美術監督 髙尾 克己さん

株式会社ARED

Interview 01

こだわりを重ねた色彩が 魅力を引き出し、 世界観を映し出す

TVアニメ『薬屋のひとりごと』の
美術制作でのこだわりとは?

「色」と「光」に強くこだわっており、キャラクターの心情に合わせた色使いや光のエフェクトも多いです。例えば、第2期の第35話で、猫猫(マオマオ)と壬氏(ジンシ)が敵の襲撃から逃れるために滝つぼへ飛び込むシーンでは、素材をレイヤー分けして描き込んだ上で、エフェクトなどの効果を加えました。また、フル3Dのシーンでは、影の色に黒ではなく青みを入れるなど、通常の背景と混ざっても違和感が出ないように気をつけています。

背景美術は、状況や世界観を伝える上でもとても重要な役割を果たします。色彩設計のスタッフさんと徹底的に話し合い、キャラクターを引き立てながら背景としての役割を果たせる最適な落としどころを導き出すのも、こだわっているポイントです。

こだわりを形にする上で、特に苦労したエピソードは?

第2期の第47話で、楼蘭(ロウラン)が曇った星空の下で踊り、撃たれて落ちるシーンの制作です。非常に見せ場が多い重要なシーンで、画面全体の統一感を出すため、2〜3人のスタッフが描いた背景モデルの全てに、私が2〜3日かけて手を入れて仕上げました。 また、「徐々に夜が明けていくようにしたい」という監督の要望をもとに、光の移り変わりをカットごとに細かくコントロールするのもなかなか大変でした。

最終的に第2期までに作成した背景モデルは、200シーンを超えました。一般的なアニメ作品なら40〜50シーンでも多いくらいなので、桁違いです。苦労もありましたが『薬屋のひとりごと』の緻密で華やかな世界観を、妥協せずに表現するには必要な数だったと思っています。

Interview 02

クオリティを高める チーム連携とイメージを ライブで具現化する美術提案

「美術監督」とは?

美術監督は、キャラクターが生きる世界の「時間・空気・光」をコントロールする司令塔のような役割を担っています。 背景サンプルやイメージイラストをまとめた美術ボードを作成し、美術の方向性や世界観の共有、美術スタッフの仕事のチェックやクオリティ管理が主な仕事です。ただし、『薬屋のひとりごと』ではさらに踏み込んで、3Dモデルのテクスチャ修正、ライティングの指示、光の演出など、幅広く関わっています。

“良い仕事”にするために大切にしていることは?

制作チームの連携です。制作、演出、監督、色彩、そして撮影にいたるまで、アニメは複数のセクションのスタッフが関わり合って成り立っています。自分の基準で物事を決めつけず、次のセクションの工程を考慮して、全体の制作がスムーズに進むよう心がけています。

毎話、初めに多くのスタッフが集まり意見を交わして絵を決めていくのですが、言葉ではイメージを正確に共有できないので、議論が長引くことがありました。そんなとき、私がライブで美術を描写し提案したところ一瞬で解決したんです。それからはライブで美術を描き、決めるスタイルが定着し、飛躍的に議論が早くなりました。

仕事でやりがいとは?

監督のオーダーにプラスアルファのアイデアを提案し、喜んでもらえた時ですね。常に「期待以上の絵」で応えることを目指しています。

例えば、『薬屋のひとりごと』の第1期のティザービジュアル(公開前に一部の情報のみ見せる宣伝画像)で描かれた空は、はじめは「雲なし」のオーダーでしたが、長沼監督に「雲を足した方が、空間に広がりが出る」と提案しました。

また、地面が虹色に染まった表現も、私の提案から生まれたものです。色が重なる部分に濁りが起きないように、隣り合う色は反対色を避け、各面積のバランスなどを考慮して美しい虹色の反射をつくり上げました。

こうして完成したビジュアルを見たファンの方々が背景を褒めてくれたり、アニメを見てポジティブな反応に触れることが、制作の大きな励みになっています。

Interview 03

「より良く、より早く」を 追求し、背景美術のレベルを 底上げしたい

TVアニメの第3期と劇場版の見どころは?

第3期では、今までの後宮の中でのお話がメインだったところから、ガラッと舞台が変わっていきます。 キャラクターたちの活躍とともに、楽しんでいただけたらうれしいです。

ちなみに、テレビシリーズや劇場版を含め、ディテールにはかなりこだわっているので、引きの全景カットや、建物の造形や植物の描写なども隅々まで注目していただきたいです。

作品づくりを続ける中で、今後挑戦したいことや目標はありますか?

最新技術を活用し、より良い作品をより早くつくっていきたいです。これまでも、新しいツールを積極的に取り入れてきました。今は新しいレンダリング技術を模索中です。自分とスタッフの技術をもっと向上させ、背景美術のレベルを底上げしていきたいです。

あとは、アクリルスタンドの背景や舞台の制作など、立体的な商品づくりにも挑戦してみたいですね。理由は、シンプルに自分が欲しいから(笑)。アニメファンのひとりとして、ファン目線を大切にしながら新たな挑戦を続けていきたいです。

活躍し続けるために、日頃から行っている目のケアを教えてください。

仕事の準備までを含めると1日10時間以上モニター作業をしているので、目への負担は大きいと感じています。ケアとしては、目が疲れたと感じたら10分ほど休憩をとったり、蒸しタオルで温めたりしていますね。あとは、どれだけ忙しくても睡眠時間は最低限確保しています。サプリメントなども、目の疲労感の軽減や、ピントの調節に役立つのであれば、ケアとして考えてみたいですね。

これからもより良い作品づくりをしていくために、健康にもっと気をつけていきたいです。

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