監督 筆坂 明規さん

感情の輪郭を映しながら、 キャラクターの人生を描く

#01

監督 筆坂 明規 さん

TVアニメ『薬屋のひとりごと』第1期の副監督を経て、第2期から監督を務める筆坂明規さん。色と構図で感情を設計し、キャラクターの人生を形づくる視点と、作品への深い愛、さらに、TVアニメ第3期の見どころを語っていただきました。

※本記事には、TVアニメ『薬屋のひとりごと』第1期・第2期の内容が含まれます。未視聴の方はご注意ください。

監督 筆坂 明規さん

Interview 01

感情を表すのは、 セリフだけじゃない色や光、 距離感にまで物語を乗せて

『薬屋のひとりごと』の第1期で副監督、第2期で監督を務めた際、意識されたことはありますか?

第1期で監督、第2期以降で総監督を担われた長沼さんは、色で感情や場面の表現をすることに長けた方で、本作の「色」のベースラインを築いた存在でもあります。その色へのこだわりは第2期でも意識しました。

私はもともと、構図や尺の取り方でキャラクターの感情や関係性を表現することを大事にしてきましたが、長沼さんから学んだ「色」という表現が加わったことで、演出の幅が大きく広がりました。色で場面の空気を変えられるのは、本当に面白いアプローチですよね。

「色」という部分で、特に印象に残っているシーンは?

第2期の第45話で、子翠(シスイ)改め楼蘭(ロウラン)が、猫猫(マオマオ)と砦の階段の踊り場で話すシーンです。猫猫が「子翠」と呼ぶか「楼蘭」と呼ぶかを決断する、第2期のフィニッシュに向けた大事な場面でした。

ここでは窓から差し込む明るい光が、時間の経過とともにオレンジや黄色、そして紫色へと変わっていきます。物語としてはシリアスな展開が続き、時間帯も夕方から夜に変化するタイミング。でも、二人の間に一瞬の光を差し込みたくて、美術監督の髙尾さんに「雲がどいた、そんな理由でもいい。少しだけ明るくしてください」と無茶なお願いをしました(笑)。ストーリーを逆算して光の具合をつくり込めたことで、あの表現が生まれたのですが、二人の友情や、言葉にできない感情の揺らぎが伝わっていたらうれしいです。

筆坂さんが、特に気に入っているキャラクターは?

猫猫、子翠、小蘭(シャオラン)の三人です。この三人が一緒にいる様子がすごく好きで、グッズも熱心に集めています(笑)。

猫猫は一見ドライに見えますが、二人と出会って少しずつ打ち解けていく。特に私が監督を務めた第2期では、その距離感のグラデーションを24話かけて丁寧につくっていきました。

キャラクターの描き方についても強いこだわりがありそうですね。

私は、猫猫や壬氏(ジンシ)をはじめ、あらゆるキャラクターがその世界の中で生きているという意識を持っています。私たちがカメラを持ち込んで彼らの人生の一部を撮らせてもらっているという感覚。それがあることで、キャラクターが本当に自分の人生を生きているという説得力が出てきます。

あとは、「裏側ではこんなことがあるかな」「今ここにいない人は、こんなことをしているだろうな」なんて、キャラクターたちの人生を想像するのが楽しいんですよ(笑)。

Interview 02

頭の中のイメージをもとに、 作品の方向性や 世界観を示していく

「監督」の仕事について教えてください。

監督は、作品全体の方向性を決める存在です。アニメ制作には、多くのスタッフが関わっています。その中で「こういう映像にしたい」という共通のイメージをつくり、各部署と共有しながら形にしていくのが、監督の役割です。

具体的には、関係者で脚本を読み合わせる「シナリオ本読み」から始まり、絵コンテの作成、各工程の確認、最終的な編集まで、作品づくりのほぼ全てに関わります。

絵コンテは映像をつくるための設計図であり、制作の指針となるものです。編集も会話のテンポや映像の仕上がりを担う重要な工程になります。

「監督」を一言で表すとしたら?

勇気を持って決断し、その結果に責任を持つ、「敢作敢当」という言葉が一番しっくりきます。

ただ、各部署からの確認や相談が最終的に自分のもとへ集まるので、自分が考える時間と、チーム全体が動く時間は常に意識しています。また、決断を早めるためにも知識や技術、そして感性も磨いていかなければなりません。そのためにも、あらゆる映像を見て、いろんな人と話し、自分の感性の「ライブラリー」に知識や学びを貯めていくようにしています。

Interview 03

一人でも多くの人に 作品を楽しみ、 喜んでもらいたい

TVアニメ第3期の見どころは?

第2期まで描いてきた後宮での物語が一段落し、第3期では舞台がさらに広がっていきます。新たな舞台、新たな人物との出会いがあり、その人たちの人生の歩みや、抱えている事情が少しずつ見えてくる。物語としても、新しい章の始まりにあたるような位置づけになると思うので、キャラクターたちの魅力も描きながら、世界観がぐっと広がっていく部分をしっかりお見せできればと思っています。

筆坂さんの、今後の展望を聞かせてください。

一人でも多くの方に楽しんでほしい、喜んでほしい。目指しているのは、それだけです。

監督は、演出に責任・決断という要素が加わったような役割だと思います。演出は、自分の内面を切り売りする側面がある。だからこそ、自分が素敵だ、好きだと感じたことを受け入れてもらえなかった時はつらいんですよ。毎日悩むし、決して楽な仕事ではありませんが、絵コンテを描き、映像の根幹をつくる作業はとてつもなく楽しい。「これ以上楽しい仕事は他にない」と思っています。

そうやって続けてきたおかげで、今まで、ちゃんと食べていけているか心配していた母が「面白い作品をつくっていて、すごいね」と言ってくれたんです。普段はアニメを見ないのに、『薬屋のひとりごと』は見てくれているのが、すごくうれしかったですね。

最後に、普段取り組まれている目や体のケアについて教えてください。

1日12時間ほどはタブレットやパソコンを見ているので、目への負担は大きいですね。最近の一番の悩みは老眼です。生活に支障が出てきたので、遠近両用のメガネをつくりました。

それから、疲れた時は無理せず、音楽を聴きながら目を閉じて休む。肩こりは万年ですが、筋トレで肩周りを動かすようにはしています。最近はサプリメントも取り入れるようになり、「えんきんプレミアム」も飲み始めています。

この仕事を長く続けるためにも、体のケアは大事にしていきたいですね。

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