総作画監督 池田 裕治さん

作画の「最後の砦」として 作品の世界観を守り続ける

#03

総作画監督 池田 裕治 さん

TVアニメ『薬屋のひとりごと』の世界観を磨き上げる、総作画監督を担う池田さん。制作の裏話や、徹底したこだわりの根底にある制作者としての思い、そしてTVアニメ第3期への意気込みを語っていただきました。

※本記事には、TVアニメ『薬屋のひとりごと』第1期・第2期の内容が含まれます。未視聴の方はご注意ください。

総作画監督 池田 裕治さん

株式会社オー・エル・エム

Interview 01

表現の鍵は、 壬氏なら「美しさ」 猫猫なら「無表情」に 滲む感情

『薬屋のひとりごと』の制作にあたり、難しさはありますか?

一番難しいのは、主要キャラクターの一人である壬氏(ジンシ)を描くことですね。美しすぎるので(笑)。それに、キャラクターデザインを手がけている中谷友紀子さんの描く、美しい絵にどれだけ近づけられるかを常に考えています。

特に壬氏に対するファンの方々の期待度は高いので、彼の魅力や美しさを損なわないように、日々悩みながら描いています。

本作ならではの表現の特徴を教えてください。

主役の猫猫(マオマオ)の表情です。多くのアニメ作品では、感情を表情やリアクションで大きく見せることがありますが、『薬屋のひとりごと』はむしろ逆で、猫猫は感情をあまり表に出しません。その分、内側にある気持ちをどう伝えるかが非常に重要なんです。

派手な表情や大きなリアクションよりも、「何を考えているのか分からない。でも、何かを感じている」という絶妙な表情を描くほうが難しく、なおかつ単調にも見えないようにしないといけない。この絶妙なさじ加減によって生まれる繊細な表現こそが、本作らしさであり、ファンの皆さんが猫猫に引き込まれる理由の一つではないかと思います。

目の表現も大事かと思いますが、キャラクターごとの描き分けで意識していることは?

壬氏はスッとした切れ長の目、女性キャラクターは大きく丸みのある目、猫猫は少し吊り目気味という特徴があります。その形を外さないことが、キャラクターや作品の世界観を守ることにつながると考えています。

第2期の第47話では、雪が舞う中、楼蘭妃(ロウランヒ)として最後まで悪役を演じ切った子翠(シスイ)の舞を壬氏が見つめるシーンがあります。あの場面は、壬氏の目の線に力を入れ、静かな迫力が出るよう原画に修正を加えました。言葉はなくても、彼の感情がじわりと伝わってくるように。

子翠の舞を見つめる翠苓(スイレイ)の姿も印象的でした。

あの一連のシーンは、私としても力を入れたところです。翠苓は、最初こそミステリアスで冷たい印象でしたが、物語が進むにつれて彼女の置かれていた環境や背景が見えてくる。すると、見え方がまったく変わってくるんですよね。彼女が抱えていた複雑な感情や葛藤が少しでも伝わるように、意識しながら描きました。

Interview 02

アニメーターの個性を 生かしながら 世界観を統一する 難しさと面白さ

「総作画監督」という仕事について教えてください。

アニメ制作では、複数のアニメーターがキャラクターを描くため、描き手ごとの個性が表れます。そこでまず、作画監督がアニメーターの絵を整え、さらに総作画監督が作品全体を見渡しながら、キャラクターの表情や絵柄の統一感を調整します。つまり、たくさんの人が描いた絵を一つの作品として成立させる「最後の砦」ともいえる存在が、この仕事なんですね。

総作画監督として、特に大切にしていることは?

キャラクターの統一感を保つことと、作品としてのクオリティラインを守ることです。ただ、統一するといっても、アニメーターや作画監督の個性は生かしたい。アニメーターの良いところは大事にしながら、作品の世界観に自然と溶け込ませていく。塩梅を探り続けることが、この仕事の一番難しくて、一番面白いところです。

Interview 03

絵が好きだから、 描き続けられる 作品への敬意を 胸にさらなる高みへ

TVアニメ第3期の見どころを教えてください。

まずは猫猫と壬氏の関係です。距離が縮まっているようで、まだ縮まっていない。何かありそうで、なかなか進展しない(笑)。あのもどかしい絶妙な距離感は、引き続き注目してほしいです。

また、第3期では舞台が大きく広がり、新しいキャラクターも数多く登場します。原作ファンもワクワクするような場面がたくさんあるはずです。

第3期の制作で特に意識したことはありますか?

衣装や時代考証には特に気を配っています。本作はフィクションですが、中華風の世界観を土台にしています。そのため、袖の形や髪型一つとっても、資料を調べながら確認を重ねる必要があるんです。

特に男性キャラクターは髪を結う文化が前提なので、現代のような自由なアレンジができません。新しいキャラクターが登場するたびに、髪型に頭を悩ませています(笑)。また、これまでとは異なる地域のキャラクターも登場するため、衣装のバリエーションもさらに増える予定です。

そうした部分を細かくつくり込んでいるので、ぜひ楽しんでいただきたいですね。

常にこだわりを持ち、制作を続けられる理由は?

「好きだから」、それだけです。私は絵が好きで、どうせなら好きなことを仕事にしたいと思い、この世界に入りました。悩むことや苦しいこともありますが、それも含めて、好きだから続けられるんだと思います。

この世界には、自分より素晴らしい知識や技術を持った方々がたくさんいらっしゃいます。求められるクオリティも年々上がっています。でも、もっと良い絵を描きたい気持ちは変わりません。

総作画監督として、まだまだできることがあるはずなので、これからも上を目指して描き続けていきたいと思います。

最後に、池田さんが普段行っている目のケアについて教えてください。

少なくとも、1日8時間は画面を見ていますし、TVアニメの1話で約300カット、総作画監督3名前後で一人約100カットをチェックしているので、目への負担は相当なものだと思います。

普段から、目の乾きや、集中するとピント調整が難しくなる感覚はありますね。老眼でメガネをかけたり外したりする切り替えも、余計に目の負担になっているかもしれません。目をつぶって休めたり、温めたりするようにしています。

私たちにとって目は命ですから、好きな仕事を長く続けるためにも、これからはもう少し意識的にケアしていきたいですね。

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