体を気持ちよく動かせる季節になりました。
冬の間の運動不足で体力が気になる、きれいの底上げをしたい…。
そんな人は「アミノ酸」に注目してみましょう。
アミノ酸は、30歳を過ぎたらマジメに付き合いたい“元気の素”。
知っているようで、意外と知らないアミノ酸について、
分子栄養学が専門の管理栄養士、篠塚明日香先生に教わります。
今回の主役「アミノ酸」の原料は「たんぱく質」です。
たんぱく質のことは気にしていても、アミノ酸まで意識している人は少数派かもしれません。しかし、アスリートが筋力アップのためにアミノ酸を摂取することから分かるように、体内をめぐるアミノ酸の量と質によって、私たちの体は変わってきます。
なぜなら、アミノ酸は全身のあらゆる組織をつくる原料だからです。
私たちが食事で口にするたんぱく質は、胃や腸で消化吸収されて、20種類のアミノ酸という最小単位にまで分解されます。そして、DNAの設計図に従い、新たなたんぱく質として再合成されます。
たんぱく質は、アミノ酸が50個以上鎖状に結合したものです。例えば、たんぱく質の1つであるコラーゲンは、1000個ものアミノ酸がつながってできています。アミノ酸の組み合わせは、実に10万通りにものぼります。
アミノ酸は、肌や髪の毛、筋肉や骨など、人体を形づくる「構造たんぱく」として利用されるほか、血液細胞やホルモン、酵素、抗体など体の機能性を保つ「機能たんぱく」にもなります。
さらにエネルギー源としても使われますが、アミノ酸は体を作る大事な原料なので、エネルギーへの使われ過ぎは要注意。炭水化物・脂質というたんぱく質以外のエネルギー源をバランス良く摂ることが大事です。
「体を作る」「体調を整える」など、多種多様な機能のたんぱく質を合成するためには、材料となる20種類のアミノ酸が不足なく揃っていなければなりません。その内の9種類は、体内で合成することができないか、できたとしても必要量に届かないため、必ず食事から摂取しなければなりません。これが「必須アミノ酸」です。
アミノ酸20種類のうち必須アミノ酸は9種類。その1つでも不足すると再合成できません。
イソロイシン | トリプトファン |
トレオニン (スレオニン) |
バリン |
ヒスチジン | フェニルアラニン |
メチオニン | リジン(リシン) |
ロイシン |
アスパラギン | アスパラギン酸 |
アラニン | アルギニン |
グリシン | グルタミン |
グルタミン酸 | システイン |
セリン | プロリン |
チロシン |
必須か非必須かに関わらず、それぞれのアミノ酸には個別の重要な役割があります。例えば、必須アミノ酸の「ロイシン」は筋肉における重要な役割を担い、非必須アミノ酸の「アルギニン」は活力に関わります。
必須アミノ酸の重要性は、9枚の板を張り合わせた桶でイメージしてみると分かりやすいでしょう。たった1枚でも他より短い板があれば、いくら水を入れてもその板の高さ以上には水は溜まりません。
同様に、例えばコラーゲンの材料となる必須アミノ酸が食事から摂取できていなければ、コラーゲン不足になるということです。
たんぱく質はアミノ酸に分解されることで、体内で活用できるようになります。ところが、私たちは30代を過ぎると、たんぱく質の消化・吸収能力が低下していきます。
下のグラフは、各種消化酵素の分泌量の年齢による推移です。唾液アミラーゼや膵アミラーゼは糖質の分解酵素、リパーゼは脂質の分解酵素です。たんぱく質の分解に関わるのは、ペプシンとトリプシン。ペプシンは胃の中で大まかに分解し、トリプシンは十二指腸でさらに細かく分解していく酵素です。この2つの減少が顕著なことが分かります。
若い頃と同じ量のたんぱく質を食べていても、若い頃と同じように筋肉が作れているとは限りません。30歳を過ぎたら、たんぱく質の摂り方に工夫が必要と心得ましょう。
アミノ酸は体内に蓄積しておくことができず、常に消費されています。アミノ酸の原料であるたんぱく質は、1食でまとめて摂っても体内で利用し切れず、余分は排出されてしまうため、1日3食で均等に補給することで、最も効率よく再合成が行われます。
ところが日本人の食生活では、どの年代でも、朝食ではたんぱく質が不足し、夕食に偏って食べているというデータがあります。寝ている間にも細胞の生まれ変わりは続いており、寝起きの体はたんぱく質が不足気味。朝食こそ、しっかりとたんぱく質を摂りたいものです。
平均的な身体活動レベルであれば、1日に必要なたんぱく質の量はざっと50~60ℊ、一食あたり20gが目安です。肉や魚でたんぱく質20gを摂ろうとするなら、目分量で「手の平1枚分」と考えると分かりやすいでしょう。
- 納豆ご飯と野菜のみそ汁だけ
- ヨーグルトとフルーツだけ
- ハムサンドとコーヒーだけ
- コンビニおにぎりだけ
- 野菜ジュースと菓子パンだけ
- そもそも朝ご飯をとっていない
納豆の1パック(50g)のたんぱく質量は約8.2g、味噌汁1杯の約2.2gと合わせても10g程度です。ヨーグルト100ℊのたんぱく質量は約4g、ハム2枚で約3・3g。いずれの朝食も、1食あたり20gには届きません。
和食
- 紅鮭(100g)… 約28.5g
- アジの干物(1枚 80g)… 約16.2g
- 高野豆腐(乾燥で1枚 15g)
… 約7.6g - 納豆(1パック 50g)… 約8.2g
- しらす(30g)… 約4.5g
- 木綿豆腐( 1/3丁 50g)… 約3.5g
- 白米(1杯 150g)… 約3.8g
- 味噌汁(1杯)… 約2.2g
洋食
- 鶏ハム(胸皮あり50g)… 約9.8g
- マグロツナ(1缶 50g)… 約9.4g
- 調整豆乳(200ml)… 約6.4g
- ゆで卵(1個)… 約6g
- プロセスチーズ(1枚 18g)
… 約4.1g - ハム(2枚)… 約3g
- ヨーグルト(100g)… 約3.6g
- オートミール(30g)… 約4.1g
たんぱく質の“質”を表す指標として、アミノ酸スコアがあります。アミノ酸スコアが100の食品は、必須アミノ酸をバランスよく含む、良質なたんぱく源です。
食品では肉、魚、卵、乳製品、大豆製品がアミノ酸スコア100の食品。これらを毎食お皿の上に乗せましょう。
ポイントはひとつのたんぱく源に偏らないこと。肉や魚に偏ると飽和脂肪酸を摂りすぎたり、オメガ3脂肪酸が不足したりしがち、大豆ばかりだとコレステロールが不足しがちです。乳製品も脂質が多いため、メインのたんぱく源として食べるのはおすすめできません。
朝・昼・晩でいろんなたんぱく源をバランス良く食べたいものです。
たんぱく質の消化力には個人差があります。1食20gずつたんぱく質を摂るのが理想とはいえ、自分の消化力に合った量を摂ることも大事です。お肉などはあまり量が食べられないという人は、サプリメントで補うこともひとつの方法です。食事から摂るたんぱく質はゆっくりとアミノ酸に消化されていきますが、サプリメントは即効性があっても血中に⾧時間はとどまりません。いつも血中にアミノ酸があることが、細胞で利用しやすいということ。今回ご紹介したように、毎日の食事の中でたんぱく質を積極的に取り入れつつ、少食な方や食事の偏りが気になるときは、サプリメントを活用するのもよいですね。
篠塚 明日香 先生
管理栄養士・分子栄養学カウンセラー東京家政大学短期学部栄養科卒業後、老人介護保健施設での給食管理の実務を経て管理栄養士となる。現在は、フリーランスとして分子栄養学のセミナー開催やエステサロンでのダイエット指導、企業商品の考案にも携わる。
編集・ライティング:エアリーライム
図版:マッシュルームデザイン