日常で起こる小さなストレスは、放っておくとダメージがじわじわと蓄積され、
心や体に影響を与えてしまいます。
日々のストレス対策として今、注目されているのがGABA(γ-アミノ酪酸)です。
GABAの研究を続けてきた精神科医の古賀良彦先生に、なぜストレスに良いのか教えていただきました。
GABAを上手に利用して、その日のストレスはその日のうちに解消していきましょう。
ストレスとは、外界からのさまざまな刺激や心に悩みを抱えることによって心身に生じる「重荷」や「緊張」。
仕事が忙しい、人間関係に悩んでいるといったわかりやすいもの以外にも、暑い、寒い、湿気が多い、満員電車に乗る、友人が待ち合わせに遅れてきたなど、自覚しにくい日常の出来事もストレスの要因になります。
コロナ禍による生活スタイルの変化や、親の介護といった“終わりが見えない頑張らなくてはいけない状況”も、知らず知らずのうちにストレスとして蓄積されています。
ストレッサーといわれるストレスを生む要因の多くは、日常で起こる小さなトラブル(デイリーハッスル)です。
デイリーハッスルは、ボクシングのボディーブローのように、最初はなんともないけれど、蓄積すると、やがて決定的なダメージになってしまいます。
一発でノックアウトになるような大きな出来事よりも、毎日じわじわと忍び寄る小さなストレッサーの方が実は厄介です。放っておくとストレスが蓄積して、心と体に影響を与えてしまいます。深刻な事態になるまで気がつかない分、回復に時間もかかります。小さなストレスが雪だるま式に大きくなる前に、その日のうちにストレスに的確に対処しておくことが大切です。
- リラックスしづらい
- 気分が落ち込みやすい
- 集中力が続きにくい
- 休んでもなかなか疲れがとれにくい
- イライラしやすい
会社や家庭での環境を変えるのは難しいので、解消しきれないストレスもあります。
ストレスを排除しようと考えず、上手に付き合って小さいうちに対処していくのが良いでしょう。日々のストレスを溜め込まずに逃していくために、不規則な生活を送らないことが大切です。仕事する時間を決めて効率よく働く、夜になったら仕事は忘れて家でくつろぐなど、ストレスの要因から離れる場所と時間を積極的に作るようにしましょう。
γ-アミノ酪酸
(Gamma - Amino Butyric Acid)
を略して
「GABA(ギャバ)」と言います。
もともと私たちの体内にあり、食品にも含まれている天然アミノ酸の一種です。
体内のGABAは、抑制性の「神経伝達物質」として働いていて、興奮を鎮めて気持ちを落ち着かせ、リラックスを促す作用があると考えられています。ストレスが生じたときにGABAが不足していると、興奮性の神経伝達物質の作用が強くなり、緊張状態が続いてしまいます。
脳内にある化学物質のこと。
膨大な数が存在し、それぞれがお互いにバランスよく働いて脳の活動を支えています。
興奮性の神経伝達物質
ドーパミン、グルタミン酸、アドレナリン
など
抑制性の神経伝達物質
GABA、セロトニン、グリシン
など
食品やサプリメントでGABAを摂取すると、体の緊張がほぐれ、一時的なストレスを緩和する働きがあると研究で報告されています。また、体の緊張がほぐれることで、脈拍が落ち着いて、血圧の上昇も抑えられます。体がゆるむとともに、心もほぐれていき、リラックスした穏やかな気持ちに導かれていきます。
下記のグラフは、GABAとストレスにまつわる臨床試験データです。GABA(γ-アミノ酪酸100mg)を蒸留水190mlに溶解したものを摂取したあとに精神的ストレス負荷を与えたところ、視覚的自己評価(VAS)が、疲れ(疲れていないと低値)、気分(気分が良いと低値)ともに低い数値になりました。GABA(γ-アミノ酪酸)によって一時的なストレスが緩和されていると考えられます。
VAS(疲れ)
VAS(気分)
- 蒸留水
- γ-アミノ酪酸(GABA)水溶液
出典:中村学園大学・中村学園大学短期大学部研究紀要.2012;4:261-268.より
GABAが含まれている主な食材は、発芽玄米や玄米といった穀物、じゃがいも、トマト、なす、かぼちゃ、大豆もやしなどの野菜、キムチ、漬け物、納豆、ヨーグルトなどの発酵食品、メロン、ぶどうといった果実などです。いつものご飯を白米から発芽玄米に変えたり、発酵食品や野菜を組み合わせて和食を中心にした食事を意識すれば、無理なく、合理的にGABAを摂取できます。緑茶や麦茶、紅茶などGABAを含む飲み物や、GABAを強化したチョコレートも手軽にとれておすすめです。
GABAの1日の摂取量の目安は、約30〜100mgと言われています。難しく考えず、自分のストレスの度合いに合わせて、摂る量はその範囲で調整していけばOK。下記を参考に、GABAが豊富な食品を意識して食事に取り入れてみましょう。GABAは疲労やストレスによって日々消費されているので、一度にたくさんというよりも、少しずつでも毎日、習慣的に摂るのが良いでしょう。食品から過剰摂取の心配はほとんどありませんが、サプリメントは目安量を守りましょう。
GABAが豊富な主な食品はこちら。記載した量を目安に、発芽玄米+キムチなど複数の食材を組み合わせて、無理なく、おいしくいただきましょう。
発芽玄米
茶碗1杯分
(約160g)
約10mg
トマト缶詰
(ホール)
100g
(1/4缶)
約95mg
トマト
(桃太郎)
100g
(約1/2個)
約58mg
キムチ
小皿1杯
(約40g)
約24mg
じゃがいも
100g
(中約1個)
約43mg
大豆もやし
100g
(1/2袋)
約40mg
西洋かぼちゃ
(えびす)
100g
(約1/12個)
約56mg
メロン
80g
(約1/8個)
約63mg
ぶどう
100g
(約1房)
約17mg
参考:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構/機能性成分含有量データ(抜粋)ほか
日々の小さなストレスは自分でも気がつかないうちに重荷となり、放っておくとダメージが蓄積されてしまいます。その日のストレスはその日のうちに解消できるように、「GABA」を積極的に摂取しましょう。GABAは体の緊張を和らげるだけでなく、気持ちを穏やかにしてくれます。体内のGABAはストレスを感じると消費されるので、現代人は不足しがちです。発芽玄米や発酵食品、野菜などGABAを含む食材を意識して食べ、サプリメントも上手に利用しましょう。
古賀 良彦(こが・よしひこ)先生
杏林大学名誉教授。医学博士。うつ病、睡眠障害、統合失調症の治療・研究のエキスパート。日本催眠学会名誉理事長や日本薬物脳波学会副理事長などの要職を多数務める。GABA(ギャバ)・ストレス研究センター参画者であり、精神科医としての豊富な臨床経験からストレスに関する著書も多数出版している。
イラスト:福々ちえ
古賀 良彦
(こが・よしひこ)
先生
杏林大学名誉教授。医学博士。うつ病、睡眠障害、統合失調症の治療・研究のエキスパート。日本催眠学会名誉理事長や日本薬物脳波学会副理事長などの要職を多数務める。GABA(ギャバ)・ストレス研究センター参画者であり、精神科医としての豊富な臨床経験からストレスに関する著書も多数出版している。
イラスト:福々ちえ